ギュスターヴ・ジェフロワの肖像 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作は、ジャーナリストで文筆家のギュスターヴ・ジェフロワを描いた作品で、画面の連帯的統一性が素晴らしい作品と言われます。因みに、ギュスターヴ・ジェフロワは、ゴッホが生きている間に唯一売れた作品を購入した女性の弟だそうです。
それでは具体的に観て行きましょう。
椅子に腰掛け、仕事机に両手を乗せながら執筆中のギュスターヴ・ジェフロワが描かれています。画面の左側には薔薇が挿された花瓶とロダンの彫刻が置かれています。さらにギュスターヴ・ジェフロワの背後には本棚に秩序正しく並べられた幾数もの本が置かれており、文筆家として知識が豊富であることを伺わせます。
本作を観る者の視線は、まず手前(画面下部)の仕事机に置かれる書物や小物に向けられ、そこから両手をハの字に広げたギュスターヴ・ジェフロワの姿と顔面へ、そして斜めに配された椅子を経由して背後の本棚へと誘導されます。
この自然な視線の誘導こそ、セザンヌが本作に込めた仕掛けであり、垂直が強調された画家独特の堅牢性と共に、画面の連帯的統一性が素晴らしい作品です。
オルセー美術館所蔵。
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女とコーヒーポット ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作に描かれている、コーヒーポットやカップには「自然を円柱、球、円錐によって扱い表現すべきである」というセザンヌの信念が表現されています。
それでは具体的に観て行きましょう。
青色の清潔な衣服を着た家政婦が正面を向いて座っています。堅固に整えられた髪形が特徴的な家政婦の表情は労働者階級とは思えないほど威厳があります。また家政婦の身体の中心には衣服の襞が垂直線となって描かれており、背後の壁や画面右側に配されるコーヒーポット、カップに挿されるスプーンと共に本作の垂直性を強調しています。
そして家政婦の身体を構成する円錐形や、コーヒーポットやカップの円柱形には、セザンヌが友人エミール・ベルナールと交わした手紙で記した「自然を円柱、球、円錐によって扱い表現すべきである」という信念が表現されています。
オルセー美術館所蔵。
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水浴の男たち ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作は、セザンヌが手がけた男性水浴図の代表作で、セザンヌの入浴画は、人間の姿と風景の完全な融合を目指していたと言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央には白布を持ちながら直立する裸体の男性が配され、その左側には大地に腰を下ろす男が描かれています。
画面の両端に描かれる男性の内側に傾けられた姿態と、背を向けながら直立する2人の男性、そして画面奥中央で垂直に立つ一本の樹木によって形成される三角形の構図。さらに中景に描かれた水浴に興じる多くの男性の躍動的な姿、近景・遠景の差異を殆ど感じさせない平面的構成にセザンヌ絵画の特徴が良く表れています。
セザンヌは、緻密に計算された構図と色彩により、人間と風景の完全な融合を図ったのでした。
オルセー美術館所蔵。
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温室のセザンヌ夫人 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌは、妻オルタンス・フィケを20点前後描いていますが、本作はその中の代表的なものの一つです。製作当時、セザンヌとオルタンスは、まだ結婚していませんでした。本作からはセザンヌのオルタンスへの愛情が伝わってきます。
それでは具体的に観て行きましょう。
セザンヌ夫人は、黒い細身の衣服に身を包み、やや首を斜めに傾けながら、我々に視線を向けています。背景には明るい黄土色を主体として樹木や植木鉢、花を咲かせた植物などが配されています。
やや斜めに構えたセザンヌ夫人と呼応するように背景も傾斜しており、背景の傾斜の直線上に3点の植物が絶妙な距離感で配されています。3点の植物それぞれに用いられる緑色や赤色、そして背景の黄土色、さらにセザンヌ夫人の身に着ける衣服の黒が、見事に調和しています。
セザンヌ夫人は無表情で表情から感情を読み取ることは出来ませんが、上記のような色使いから、日光の光のような暖かさが感じられます。セザンヌが彼女への愛に満ちていたことが伝わってくる作品です。
メトロポリタン美術館所蔵。
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リンゴの籠 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作はセザンヌの「絵は自然の再構成だ」という主張が、明確に表れた作品と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は四角い木製のテーブルの上に置かれたリンゴと籠、白布、ワイン瓶、そして皿に盛られたビスケットを描いた作品です。
しかし、目の前の物を見えるとおりに描くと、決してこんな絵にはなりません。
真ん中に立っている瓶は不自然に傾いていますし、皿の上のビスケットは今にも崩れそうです。テーブルの形も歪んでいます。向う側の縁のラインが右と左で異なっており、手前のラインも一致していないばかりか、側面部分は煩雑で、纏まっていません。そして、籠も明らかに傾き過ぎています。
しかし、これらは全て、画面中央の一個のリンゴの存在感を描くために仕組まれているのです。籠の不自然な傾きも、画面全体の空間的な曖昧性を消し、画面に安定感をもたらしています。
自然をそのまま描くのではなく、セザンヌの視点で、吟味、再構成された事が良く判る作品です。
シカゴ美術研究所所蔵。
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台所のテーブル ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの傑作のひとつです。
本作と、ほぼ同時期に制作された「リンゴとオレンジ」と共に、セザンヌ静物画の頂点を示す作品と言われています。

       リンゴとオレンジ

それでは具体的に観て行きましょう。
林檎や梨などの果物、白布、水差し、砂糖壷、瓶、籠、木机など台所に置かれる様々な静物で構成された作品で、セザンヌの作品の中でも、特に複雑で分断的な空間構成になっていると言われます。
主対象となるテーブルとその上の静物は全体的にやや左へ傾くように描かれている他、白布に覆われた木机の形状にも矛盾が生じているなど、正確性よりも、対象そのものの存在感や個としての形態表現、絵画としての調和性が重要視されています。
特に対象の形状や色彩のみに要点を絞って描写される梨などの果物、斜めに大きく傾いた水差しや砂糖壷、他の静物と比較し明らかに高い視点で描かれる瓶などが、セザンヌ静物画の特徴と言えるでしょう。
セザンヌは、以前は、どちらかと言うとなおざりにされていた静物画の価値を一気に高めただけでなく、この革新的な対象表現により、ピカソを始めとした後世の画家たちに多大な影響を与えました。
オルセー美術館所蔵。
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青い花瓶 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作は、花が入れられた青い花瓶を中心に皿や林檎らしき果物などで構成される静物画です。簡素ながらも、セザンヌにより計算し尽くされた完成度が高い静物の構成は、観る者を感動させます。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央やや下方に斜線を引き、右側の窓枠を少し左に傾けています。それに対応するかのように花瓶を同じく左傾させる一方、下端のテーブルの水平線を目立たせ、3個の果実と花瓶の底が揃えて置かれています。
花瓶の背景には白い皿を置き、際立たせ、花の赤、白と葉の緑が対称的です。このリズミカルな構図が青い花瓶を呼吸させ、絵具は平らに塗られながら空気と光を生き生きと滲ませています。
セザンヌにより計算し尽くされ、すべてが生きているような静物画です。
オルセー美術館所蔵。
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アルルカン(道化師) ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌの息子ポールをモデルにアルルカン(道化師)を画題に描いた作品です。
この時セザンヌが探究したのは、空間における人体の形と動きの表現でした。
それでは具体的に観て行きましょう。
灰色を基調とし、緑、青、紫、褐色が混ぜられた壁面と赤味がかった床は、赤と黒の菱形模様の衣装を着て帽子をかぶり、左手にバトンを持つ彼の姿を際立たせています。息子ポールの顔立ちは簡素化されており、その表情は、まるでマネキンのように無表情な印象を受けます。
衣服の奇抜性と、まるでマネキンを思わせるような表情の無いアルルカンの人物像と組み合わさることで、現実味の薄れた革新的な対象のイメージを生み出しています。
また息子ポールは右足を一歩前に踏み出していますが、この頭部と足が画面からはみ出すほど、前進する動きを強調しています。
この時セザンヌが探究したのは、空間における人体の形と動きの表現でした。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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マルディ=グラ ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌの息子ポールと、友人ルイ・ギヨームをモデルに、アルルカン(イタリアの即興喜劇コメディア・デラルテ中のキャラクター)とピエロを描いた作品です。
「マルディ・グラ」とはフランス語で「太った火曜日」という意味で、キリスト教における「復活祭」の前にある「四旬節」(40日間肉を一切食べない期間)が水曜日から始まるので、その直前の火曜日は食いだめをして一番太った状態とのことを指します。
それでは具体的に観て行きましょう。
すらりとした肉体のアルルカンがセザンヌの息子ポールで、ピエロが友人ルイ・ギヨームです。
ピエロのゆったりとした白い上着とアルルカンのぴったりとしたアーガイル柄の服が好対照をなしています。
そして、特質すべきは、画面最上部中央から八の字に広がるカーテンと登場人物の構成。更にピエロの衣服の皺で強調される直線が画面全体に安定感を与えています。
これらはセザンヌの様式的・表現的・描写的特徴で、後世の画家に多くの影響を与えました。
モスクワのプーシキン美術館所蔵。
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