揺りかごの中のジャン・モネ クロード・モネ

印象派を代表するフランスの画家、クロード・モネの作品(1867年頃)です。
モネとカミーユ・ドンシューとの間に生まれた息子ジャンを描いた、歓びに満ちた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作からは、印象派の先駆的存在エドゥアール・マネの影響が見られます。特に高い視点からの平面的な構成要素の描写や、花柄のカーテンや乳母の帽子などに見られる大胆な筆触、そして幼子に付き添う乳母の身体の途中で切られた構図展開などに影響が色濃く表れています。また、本作の大胆な構図には日本の浮世絵からの影響も指摘されています。
ワシントンのナショナル・ギャラリー所蔵
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オペラ座の仮面舞踏会 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1873年頃)です。マネはしばしば大都市パリに生きる人々と彼らの生活を聖書や神話など正統的な主題への皮肉を交え描きました。オペラ座の仮面舞踏会もそうした作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
舞台は大広間ではなく回廊です。そこは売春や不貞の恋を求めて男女たちが集まった場所として知られていました。本作はそこに集った燕尾服を着た男性と、多様な格好をした女性たちが恋の駆け引きをしている様子を描いています。そうした同時代の人たちを強調するのが、画面上部に見られる女性の足のみの描写です。19 世紀、女性の足は男性の性的欲望を掻き立てるものと認識されていました。
一方、本作のような風俗的主題を扱った作品の中にもマネの鋭い現実への洞察や、聖書や神話など正統的な主題への皮肉が示されています。例えば「オルガス伯爵の埋葬」での聖人や教会を支えた有力者たちの集団は、当時のパリの現代化を支えた上流階級の人々と仮装した娼婦たちの姿に変え描かれています。また絵画としての色彩構成も黒色の衣服に身を包む男たちが画面の大部分を占める本作の中にアクセント的な差し色として、娼婦らや人形の格好をした男や水平に描かれる2階部分の床や垂直に描かれる2本の大理石の柱の白色が用いられています。
ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵
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鉄道 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1873年頃)です。マネは1874年のサロンへ4点出品しています。その内の2点が入選、本作はその一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作の舞台は、パリのサン=ラザール駅です。線路脇の建物の庭から駅構内の方を眺める構図で、背景に線路の向こう側の建物やヨーロッパ橋の一部が見えています。鉄道は、近代都市パリを象徴する新しいテーマでした。しかし、通過する汽車の存在は、白煙で暗示されるにすぎず、主人公として描かれているのは、鉄柵の手間の1組の母子です。
若い母親は、画題である鉄道とは無関係な読書をしており、その合間に目を上げてこちらを見たところです。膝の上では子犬が眠っています。この女性のモデルは、「草上の昼食」や「オランピア」でもモデルを務めたヴィクトリーヌ・ムーランです。少女は、母親が読書に熱中しているせいで、退屈して鉄柵の向こうのサン=ラザール駅構内を見ていることが読み取れます。母親の暖かそうな服装に比べ、娘は肩から両腕をさらしており、寒そうに感じられます。
マネの作品は、意味ありげなシチュエーションやモチーフでも知られていますが、ここでも少女の脇になぜか一房のぶどうが置かれています。昼下がりの日常的な光景に、駅や鉄道という近代化のシンボルを織り込み、そこに小さな謎をスパイスのように効かせた本作は、マネの真骨頂を示す一枚といえます。
ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵
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老音楽師 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの初期作品(1862年頃)です。本作はマネの時代を見つめる鋭い観察眼を基に、確信犯的かつ野心的な写実主義(※1)の作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は当時再開発が進んでいたパリ市内サン=ラザール駅裏手にあった取り壊し後の貧民街の殺風景な風景の中に、そこへと集まる老音楽師や浮浪者、大道芸人、屑拾いなどを描いた集団人物図版的風俗画です。流しのヴァイオリン弾き(老音楽師)を中心に、赤ん坊を抱くジプシーの少女、街の少年たち、浮浪者風の男、ユダヤ人の老人を描いています。
老音楽師の演奏を聴くために人々が集まっている場面ですが、登場人物間の心理的な交流も見られず、各人物の視線はばらばらで、孤立しています登場人物各々が独立して描かれる画面の中に、当時のパリの近代性や社会的変化、そしてそれがより進むであろう未来的予測を表現した写実主義的作品です。
※1:写実主義:実の自然や人間の生活を客観的に描写しようとする様式。
ワシントンのナショナル・ギャラリー所蔵
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カウパーの聖母子 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年頃)です。ごく普通のイタリアの田舎にいる聖母マリアと幼児イエス・キリストを描いた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
聖母マリアは、鮮やかな赤い服を着て、木製のベンチにゆったりと腰掛けています。聖母マリアはブロンドの髪をしており、適度な清潔感があります。膝の上には暗い色のドレープがあり、聖母マリアの右手がその布にそっと触れています。ごく薄手の透き通るリボンが、聖母マリアの頭の後ろから服の上に渡って優雅に流れているようです。頭には、かすかに輝く金色の光輪が神秘的に描かれています。
聖母マリアは、左手で幼児キリストを抱き、キリストは、片方の腕を聖母マリアの背中に回し、もう片方は聖母マリアの首あたりに置いて抱きついています。キリストは、ためらいがちな笑みを浮かべながら後ろを振り返っています。
2人の後ろには、美しく澄み切った明るい昼間の光景が広がっています。遠くでは、2つの人影が、水面がきらめく池に向かってのんびり歩き、緑に囲まれた景色を楽しんでいるように見えます。大きくとても印象的な建物が、長い道の先に建っており、アーチ型の天井やその他の付属物が、宗教的な神々しさと優雅さを醸し出しています。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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聖ゲオルギウスと竜 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1506年頃)です。キリスト教の聖人である聖ゲオルギオスの竜殺しの伝説を描いたもので、聖ゲオルギオスは人間の犠牲を要求した竜を飼いならして殺害し、次の生贄として選ばれた王女を救出したと伝えられています。
また本作は、ラファエッロが苦労して身に付けたルネサンスの理想やテーマが現れている作品で、騎士道精神とキリスト教を融合させた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
聖ゲオルギウスが座っている馬は、自然主義的な筋骨格を見事に表現しています。特に脚と首の下の部分は、動物の皮膚と同様に筋肉の息遣いが感じられます。更に、象徴的な物語は典型的なキリスト教的なものです。
この作品の背景は、ペルーギネス的な色調と光、澄んだ青空に支配されており、聖ゲオルギウス自身は目の覚めるような赤い鞍に座っています。これも、鮮やかで印象的な色を使うという、ラファエッロの反ダ・ヴィンチ的な傾向の表れです。その結果、聖ゲオルギウスは古代ローマの馬の彫像に似ています。
この絵は、排他的というよりも規範的な印象を与えますが、竜のイラストが印象的で目を引きます。竜からは、はっきりとした憎しみと攻撃性が見て取れます。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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ビンド・アルトヴィティの肖像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1515年頃)です。
ラファエッロの後期ローマ時代は、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受け、様々なスタイルや構造を試していました。本作のシンプルで比較的女性的な立ち位置と圧倒的な光と影の対比も、その試みの一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
光と影の強いコントラストに加え、男性の肖像であるのに、優美で、まるで女性のようなモチーフの姿は、これまでのラファエッロ作品からはかけ離れています。そして、被写体を回転させることで、うっとりするような視線を意図的に作り出しています。
目は、「愛情の補佐役」として知られています。頬を紅潮させ、胸に当てた手には指輪をし、肩から伸びたローブからは、繊細なねじりで撫でられた髪の毛が露出しています。その鮮やかな陰影は、彼の愛情の高潔さと無垢さを強調しています。ラファエッロはこの時期、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受け、様々なスタイルや構造を試していたのでした。
ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー所蔵。
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ファタタ・テ・ミティ(海辺で) ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1892年)です。
ゴーギャンが初めてタヒチ島を訪れた直後、現地の竹小屋で描かれた作品で、実際に見た光景ではなく、ゴーギャンが日常的なタヒチ島の生活をエキゾチックな眺めに変換し描いた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
二人の女性が海へと飛び込もうとしている光景を背後から描いています。背景には槍を持った漁師がいますが、二人の女性は裸のまま海へと向かい、周囲にいる漁師に全く気にしない様子です。
ゴーギャンはくすんだ火山の茶色である砂浜をピンクと紫で描く事によって、官能的な喜びを表現しました。ここで使われている平らな形で混合されていない色を使用する手法は、彼がブルターニュで開発した総合主義(※1)と呼ばれる手法です。
本作はゴーギャンが総合主義の手法を使い、実際に見た光景ではなく、日常的なタヒチ島の生活をエキゾチックな眺めに変換し描いた作品です。
※1:総合主義:1880年代末頃、ポール・ゴーギャン、エミール・ベルナール、シャルル・ラヴァル、ルイ・アンクタンらによって提唱された芸術運動。色彩を分割しようとする印象主義への反発として現れた、ポスト印象主義の一潮流で、2次元性を強調した平坦な色面などに特徴があります。
ワシントンDCにあるナショナル・ギャラリー所蔵。
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ペパーミントボトルのある静物 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌの静物画の中で最も独創的な作品の一つです。
奥行きや水平面を抑えることで、形や色にまとまりを与え、カーテンの曲線と直線の二次的なリズムが、他の物体の線と巧妙に適応しています。
それでは具体的に観て行きましょう。
セザンヌはテーブルの奥行きを抑えており、テーブルの上面は何も見えません。テーブルの上の物は壁のように垂直な平面に吊るされているように見えます。
しかし、セザンヌはこの収縮した空間の中で、あえて透明なガラスを絶妙に描き、そこから何層もの物体を見ることができます。
また、カーテンに複雑な折り目をつけて練り上げ、その隠れた窪みに木や建物のように物を配置しました。
また、水平面を抑えることで、キャンバスの表面にある形や色に、より明確なまとまりを与え、物の物質的な性質、その固さ、重さ、不透明さ、透明さをより好んで使っています。
更にこの絵画には、線の発明においても驚くべきものがあります。
優雅な二重の曲線を描くペパーミントの瓶、シンプルで大きなフラスコは、それにより純粋さと力強さを兼ね備えた2つのメロディーを奏でています。
重く青いカーテンの上には、黒い装飾の魅力的な遊びがあり、曲線と直線の二次的なリズムが、他の物体の線と巧妙に適応しています。またカーテンに内在する模様がわからないように配置されています。それらは自由な線のパターンであり、あるところでは壁やテーブルの線のように硬く、あるところでは瓶のように湾曲し、また蛍光的に、他の場所では枝分かれし、それらは場所によっては自由に浮遊する小さな音符のようです。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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