シャトーノワール ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの晩年作品です。
晩年のセザンヌの作品は、より地味で神秘的なものとなって行きます。セザンヌは自然の根源的な秩序だけでなく、その混沌とした落ち着きのなさにも惹かれていたのでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
描かれた場所は、地元の伝説によれば「悪魔の城」と呼ばれていた人里離れた、行くのが困難な禁断的な場所です。セザンヌは風景の奥行きを遠近法を使うのではなく、色彩の違いで表現しています。そして、空の青は風通しの良いものではなく、鉛色で、紫と緑のタッチで暗く描いています。建物も、深い黄土色で描かれ、ゴシック様式の窓と不完全な壁が、廃墟のような雰囲気を醸し出しています。
この絵画はセザンヌによると「この場所に対する彼の完全な感覚を実現しようとする試みであり、それはセザンヌ自身のの気質、視覚、精神を含むもの」でした。この絵画を描いた1年後、セザンヌはその人生を終えたのでした。
ニューヨーク近代美術館所蔵。
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赤いチョッキの少年 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌが、初めて一流のモデルを使って描いた作品で、モデルに様々なポーズを取らせて、この作品を含む4点の油絵と2点の水彩画を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
それまでのセザンヌの作品と比べて全体がずっと整理され、色彩も鮮やかに描かれています。中央の少年の右腕が長く引き伸ばされ大きく描かれています。それは、袖のついている左腕と比較するとよりはっきり判ります。しかし、この絵からは、右腕の異常な大きさにあまり違和感は感じません。
少年の右腕は、絵画画面の中心にどっしり大きく据えられた大黒柱のようなもので、全体に安定感を与え、それを通じて、画面に美しさと奥深さを生じさせているのです。
そして、鮮明な赤チョッキに強いインパクトを感じます。 少年の身に着けた、赤、白、青が魅惑的です。 少年が肘をついている椅子の緑も、並大抵の色ではありません
「色彩が豊かになるほど形が豊かになる」というセザンヌの言葉の実践がこの作品に表れています。少年の長く伸びた腕を覆うシャツ、右端のソフアの上に載る四角い紙は光を反射して白く輝き、その周囲に配された、ボリュームのあるカーテン、少年の膝をつく椅子の濃い色調と、鮮やかな対比を見せています。
チューリヒのビュールレ・コレクション所蔵。
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下記はセザンヌが本作と同じモデルを使って描いた、残り3作の油絵です。

バッカナリア 愛の争い ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
バッカナリアとは、古代ギリシアの酒と収穫の神バッカスを祀る祝祭で、神々などに扮した祭りの踊り手たちは、足を踏鳴らして渦巻状に踊り、愛、酒、歓喜と喜びの恍惚状態となります。
それでは具体的に観て行きましょう。
森の中で男女や女と女の愛の争いが繰り広げられる情景が描かれています。セザンヌ独特の荒々しく劇場的な筆触により、愛の争いを表現しており、男女らの姿は非常に暴力的です。
右から3番目の金髪をなびかせた女同士による愛の争いの姿は神話の一場面のような雰囲気を醸し出しています。左側の2本の木は、立っている姿と逆さになっています。更に、右下の興奮しながら吠えている一匹の黒犬が、アクセントとなっています。
ワシントンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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現代のオリンピア ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの初期の代表作です。
本作はセザンヌの同名作品の2作目で、1作目の作品(セザンヌの初期の作品)は、暗い色彩で描かれていました。

現代のオリンピア(1作目)

しかし、本作は光り輝くまばゆい色彩と華麗な演出で描かれています。この頃、セザンヌの作風は印象派に向かっていました。
黒人の召使いにさらわれた女性の裸体と、女性を観客のように見ている黒衣の男の優雅な服装のコントラストが、観る者にエロティックで芝居じみた印象を与えます。絵の左側に垂れ下がっているカーテンの存在により、芝居じみた印象は、更に強調されています。
ティツィアーノによる傑作「ウルビーノのヴィーナス」から続く、西洋絵画史における裸婦の表現とその位置付けをさらに進化させたと言われる作品です。
オルセー美術館所蔵。
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春夏秋冬 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの4連作です。
それでは具体的に観て行きましょう。
楕円形に湾曲した4つの壁に、四季の移り変わりを、8頭身の美女を使って描かれた作品です。画面では、左から春・夏・秋・冬の順番に並べています。
「春」:ブロンドの女神が、庭に咲いた花々をつなぎ合わせて帯にして、春の到来を告げています。女神は左肩を落として、膝を軽く曲げ、身体をS字形にくねらせています。この姿勢はコントラポストと言われ、ミロのビーナスも同じ姿勢です。
「夏」:南仏の真っ白な夏の光の中で、女神が収穫したばかりの麦を両手に抱えいます。足元には、麦の束や、籠に入れた果物が溢れています。
「秋」:豊穣の女神の典型的なイメージを、秋空の下で、収穫したブドウや果物を入れたカゴを頭に乗せて歩く、巨大な女神のように描いています。背後には、非常に小さく描かれたサント・ヴィクトワール山が見えます。
「冬」:頭巾をかぶった女性が、焚火の前でしゃがみこんでおり、寒さが伝わってきます。
パリのプティ・パレ美術館所蔵。
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レ・ローヴから見たサント・ヴィクトワール山 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌがサント=ヴィクトワール山の風景を描いた数ある作品のひとつです。
それでは具体的に観て行きましょう。
白い雲が幾重にもたなびく、青空を背景にして、山が見えます。
抽象化された遠景のサント=ヴィクトワール山や前景の田園風景などの調和、単純化されながらも複雑で繊細な調整が施された空間構成、そして、光の描写の中に加えられる青い色彩は、セザンヌが晩年に辿り着いた風景画の表現手法でした。
「地平線と平行する線は、神が目の前に与えた自然の一部であることを表し、垂直な線はそれらに深みをもたらす。この風景の中に空気を感じさせるには、赤や黄色で表現する光の振動の中に、十分な青味を加える必要があるのだ」
とセザンヌは述べています。
フィラデルフィア美術館所蔵。
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サント=ヴィクトワール山 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌがサント=ヴィクトワール山の風景を描いた数ある作品のひとつです。
セザンヌは構図や陰影ではなく色彩によって遠近感を表現しようと試みました。この作品はその集大成と言えるものです。
それでは具体的に観て行きましょう。
堂々と雄大に描かれたサント=ヴィクトワール山は、陽光によって多様な輝きを反射しています。ほぼ三角形の形で構成されるサント=ヴィクトワール山は画面の中に重量感と安定感をもたらし、前景の変化に富んだ山道や木々は画面にリズム感を与えています。
セザンヌは、構図ではなく色彩によって遠近感を表現しました。画面中央から下部へは農道がうねるように描き込まれており、起伏の激しい麓の様子が感じられます。また画面手前の黄土色や赤茶色の山道からややくすんだ木々の緑色、山麓の青緑、そして画面上部の蒼いサント=ヴィクトワール山から青空へと続く色彩の変化は、まるですべてがひとつの流れとなり自然の中へと溶け込むかのようです。
サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館所蔵。
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女性大水浴図 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品で、セザンヌの最高傑作のひとつです。セザンヌが晩年に辿り着いた集大成とも言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
多数の水浴する女性を描いています。左右から中央に向かって伸びる木々や、個々の女性像がその姿態によって形成する三角形の図式は、安定感と視覚的な強調効果をもたらしています。
マニエリスム(※1)に通じる極端に引き伸ばされた人体的構造や、キュビズム(※2)に通じる複数の視点の採用、個別では大雑把かつ散逸的でありながら、全体では明確に対象の形象を捉えた筆触、透明感と重厚感が混在した色彩描写など、セザンヌが晩年に辿り着いた集大成と言われています。
セザンヌは、生涯をかけて古典的な理想化表現と写実的な造形表現の融合、人間と自然の調和、古典と現代の調和を追求したのでした。
フィラデルフィア美術館所蔵。
※1:マニエリスム:盛期ルネサンスと初期バロックの間の芸術様式を指し、その特色は人体表現において顕著で、誇張された肉づけ、引き伸ばし、様式化した姿勢や派手な色彩などがあります。
※2:キュビスム:20世紀初頭にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始された美術様式。それまでの絵画が一つの視点に基づいて描かれていたのに対し、いろいろな角度から見た物の形を一つの画面に収めました。
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アンブロワーズ・ヴォラールの肖像 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作品はフランスの美術商、アンブロワーズ・ヴォラールを描いたものです。セザンヌは肖像画制作にあたり長時間、しかも100回以上、ヴォラールにポーズを取らせたと伝えられています。ある時、ヴォラールが居眠りし姿勢を崩した際「何てことだ!あなたは私のポーズを台無しにした!林檎のように動いてはならないと何度言えばわかるのか。林檎は動かないのだ。」と怒ったという逸話が残っています。
それでは具体的に観て行きましょう。
ヴォラールは片方の足をもう一方の足に交差させ、片方の手を膝の上に置き、もう片方の手をポケットに入れて座っています。茶色のスーツを着て蝶ネクタイを締め、長時間座っていることによる疲労が原因と思われる無表情な眼差しをしています。
ヴォラールを明確な輪郭線に覆い、太く角張った筆触によって描写しながら、赤色・黄色系と緑色系という対照的な色彩を対比させることにより、色彩的均衡を生み出し、セザンヌはヴォラールを巨岩を思わせるほど重々しく安定的に描いたのでした。
パリのプティ・パレ美術館所蔵。
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