水浴の男 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作は男性の裸体像表現において、伝統的な男性の裸体像表現の壁を打ち破り、新しい表現方法を示した作品と言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央で腰布のみを身に着け、腰に手を当てながら俯き加減に立つ男性。そこに描かれている男性は、宗教画や神話画などに描かれる、伝統的な筋肉隆々の逞しい男性ではなく、寸胴とした体躯や若干痩せた手足など現実味の高い男性像で描かれています。
しかし俯く男性の表情は、瞑想しているかの様でもあり、現実的でありながらもある種の隔たりを感じさせ、独特の雰囲気を醸し出しています。
セザンヌは、伝統的な男性の裸体像表現の壁を打ち破り、新たな表現方法を示したのでした。
ニューヨーク近代美術館所蔵。
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林檎とビスケット ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌは、60点以上の林檎の絵を描いています。作品「リンゴとオレンジ」では、林檎ひとつでパリを驚かせてみせると言って作成したほど、林檎に拘りを持っていました。

   セザンヌ作「リンゴとオレンジ」

本作は、林檎にビスケットを加えた静物画ですが、単純ながらもセザンヌの感性の高さと色彩に対する強い拘りを感じさせる作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
一見、中央の木製棚の上へ14個の林檎は無造作的に配置されているように見えます。しかし右側に置かれる青太縁の皿とその上のビスケットは見事に呼応しており、単純ながら観る者に心地良さを感じさせます。
静物構成には画家の天性を感じずにはいられない。また色彩表現においても
赤や黄や茶色など豊かな暖色でまとめられる林檎や木製棚、それらと対照的な青皿や緑地の壁、そしてアクセントとしての桃色のビスケットなど、セザンヌの感性の高さと色彩に対する強い拘りが感じられます。
パリのオランジュリー美術館所蔵。
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マンシーの橋 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの1870年代後期を代表する風景画作品のひとつです。パリ南東部のアルモン川に架かるマンシー橋の情景を描いたもので、古典的な牧歌的風景と印象派の色彩感覚が融合した作品です。
<MAP> Pont De Maincyがマンシー橋の架かっている場所です。

それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央に水平に描かれるマンシーの橋は、安定と秩序をもたらす効果があり、観る者に、落ち着きと安心感を与えます。
前景に配される細く長い樹木は、平面的空間の中で、観る者の視線を中景のマンシー橋へと向けさせます。さらに、この前景の樹木と呼応する画面右側の樹木群は、マンシー橋の水平と呼応した垂直を生み出しています。
また緑々とした木々の葉の美しい色彩が、作品に自然で均衡な調和性をも生み出しています。古典的な牧歌的風景と印象派の色彩感覚が見事に融合した作品です。
オルセー美術館所蔵。
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牧歌 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。ドン・キホーテの一場面を描いています。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面左側には官能的な姿態を示す裸婦と水辺で髪を結う裸婦が描かれています。画面右側にはパイプを吸うような仕草を見せる着衣の男の後姿が描かれています。
画面前景の草上には一見すると無造作的に配される登場人物ですが、観る者の視線を自然へと誘導させる効果があります。
また本作はエドゥアール・マネの名を一躍有名にした「草上の昼食」の影響を強く受けていると言われます。

エドゥアール・マネの「草上の昼食」

較べてみると、素人目にも影響を受けていることが判りますね。
オルセー美術館所蔵。
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タンホイザー序曲 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの初期の代表作のひとつです。
若きセザンヌが自分の画風を見つけようと模索する様子が感じられる作品と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
タンホイザーとは、騎士タンホイザーとテューリンゲン領主の娘エリザベトの悲恋の物語を描いたオペレッタ(小さいオペラ)です。
白い服を着て、ピアノ用に編曲されたタンホイザーを弾いているのは、セザンヌの妹ローザです。その横で編み物をしているのはセザンヌの母です。
ローザの弾くピアノの音色を聴きながら、編み物をする母。穏やかで家庭的な温もりが感じらる場面のはずが、この絵からはそのような明るい感じは受けません。
室内は静寂に満ち、暗く重苦しい空気が漂っているようです。ローザも鍵盤に指を置いているだけのようで、ピアノの音など聴こえていないかのようです。
また、ローザの上半身や母親の顔は、太く黒い線でくっきりと輪郭が描かれています。細部も太い筆でザックリと大胆に塗っています。画面に奥行きを感じないわけではありませんが、かといって立体的なわけでもなく、ローザのスカートの部分などは平面的に見えるところもあります。
本作からは、若きセザンヌが自分の画風を見つけようと模索する様子が感じられます。セザンヌは仲睦まじい家庭の様子を描こうとしたのではなく、その後のセザンヌの画風である、モノが持つ本質的な形を捉えて、構図や色彩や絵肌などの要素を組み合わせた絵を描こうとしていたのでした。
サントロペトロブルクのエルミタージュ美術館所蔵。
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アシル・アンプレールの肖像 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作はセザンヌの、1860年代における代表的な肖像作品の一つで、セザンヌの友人でもあった画家アシル・アンプレールが描かれています。
それでは具体的に観て行きましょう。
モデルのアシル・アンプレールの苗字アンプレール(Emperaire)を皇帝(Imperator)と引っかけて、アシルを玉座を思わせる大きな椅子に鎮座させています。しかし、皇帝が描かせた厳格な肖像画とは異なり、アシルは顔と視線をやや斜め下に向け、人間味に溢れた肖像画として描いています。
また、セザンヌはアシルの内面に確固たる精神があることを見抜いており、本作でも左側から照らされる強烈な光による明暗の対比や太く雄々しい輪郭と筆触、疲弊しながらも力強い意思を宿した瞳で、アシルの内面に宿る確固たる精神を表現しています。
セザンヌはアシルを「鋼の神経によって燃え上がる魂、そして鋼鉄の誇りが彼の醜く小さな身体の中に、まるで炉の炎のように宿っている」と述べています。
オルセー美術館所蔵。
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ルイ=オーギュスト・セザンヌの肖像 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌが27歳の時の作品です。
セザンヌが画家になることを反対していた銀行家の父、ルイ=オーギュスト・セザンヌの肖像画です。セザンヌにとって、父は堅牢な抑圧の象徴であり、かつ、敬愛の対象でもありました。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面のほぼ中央の背もたれの高いソファに座り、熱心にレヴェヌマン紙に目を落とす初老の男性が、セザンヌの父、ルイ=オーギュストです。威圧的にすら感じられるほど威厳に満ちた姿で描かれています。
背後の壁にはセザンヌ自身が描いた静物画作品が掛けられています。この静物画の重々しさを感じさせる光と陰影の対比、褐色の対象描写、そして父ルイ=オーギュストに落ちる深い陰を通して、セザンヌは父との複雑な関係性を表現したのでした。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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サルバトール・ムンディ レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの初期の作品です。
本作は、世界の救世主としてのイエス・キリストの肖像を描いたもので「男性版モナリザ」と呼ばれています。
ルネサンス風の青いローブを着用したキリストが右手の指を十字に切り、左手に水晶玉を持ち祝福の祈りをしています。サルバトール・ムンディとはラテン語で「世界の救世主」の意で、水晶玉は一般的に「天の天球」の象徴と解釈されています。
ルーブル・アブダビ所蔵。残念ながら現在、一般公開はされていません。
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受胎告知 レオナルド・ダ・ヴィンチ、アンドレア・デル・ヴェロッキオ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチと師匠のアンドレア・デル・ヴェロッキオが共同で描いた作品です。
本作は、ルカ福音書で、大天使ガブリエルがキリスト受胎を告げるために聖母マリアのもとを訪れた場面を描いています。
マリアが手にしている百合の花は処女性とフィレンツェを表しています。また、マリアの前に置かれている大理石の机はヴェロッキオが同じ頃制作したフィレンツェのサン・ロレンツォ大聖堂のピエロ・ディ・コジモ・デ・メディチの墓碑彫刻をモチーフにしたものです。
ヴェロッキオは有鉛絵具を使用して大胆な筆致で描いています。これに対してダ・ヴィンチは無鉛絵具を使用した柔らかな筆致で、自身に任された背景部分と大天使ガブリエルを仕上げました。
大天使ガブリエルの翼は、ダ・ヴィンチが描いたオリジナルでは鳥の翼を模写したものでしたが、後世の画家により、長く伸びた翼に描き変えられています。
フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵。
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