僧侶としてのドミニク叔父の肖像 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ(1866年)の作品です。
若き日のセザンヌは、情熱的だが暗く幻想的な絵を何枚も描いています。
それでは具体的に観て行きましょう。
官能的なものと瞑想的なもの、拡張的なものと自己抑制的なもの等、対極にあるものが描かれています。白、グレー、黒の配色で、肉体の無骨さと土の色調を対比させています。白から青みがかった冷たい色調、黄色、赤、茶色の暖かい色調を経て黒へと移っていき、襟元の冷たく突き刺すような青の輝きが全体を明るくしています。
シンプルであるが故に、ある種の壮大さを持っており、絵は空間を埋め尽くしていますが、同時に硬直もし、かつ、その暗さは動きを持っています。
更に、フードの先端は繊細に描かれており、頭部を長くしたり狭くしたりする事で、微妙に軸をずらしています。
この様に描かれたドミニク叔父さんからは、無骨で確信に満ち、かつ、激しさと獰猛さが感じられます。
セザンヌは、母の弟であるドミニク叔父さんを修道士に扮して描くことで、孤独と肉体を表現しようとしたのでした。
ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵
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2+

聖アンソニーの誘惑 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品(1887年)です。
聖アンソニーの誘惑は、ミケランジェロ、ヒエロニム・ボッシュ、サルバドール・ダリ、マックス・エルンストなど、多くの画家に描かれた題材です。
セザンヌもこのテーマで3枚の絵画を描いており、本作はその中で、セザンヌが最後に描いたものです。
それでは具体的に観て行きましょう。
絵の中央に配置された女性は、誇らしげなジェスチャーをしています。この女性は、悪魔が姿を変えたもので、聖アンソニーを誘惑しています。
左側には本物の悪魔が描かれています。この悪魔は、二重の役割を果たしているように見えます。悪魔は聖アンソニーを誘惑しているだけでなく、逆説的に聖アンソニーがしがみついている保護者であるようにも見えます。
オルセー美術館所蔵
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2+

殺人 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ初期(1868年)の作品です。
1866年から71年頃のセザンヌ作品に共通したテーマは、死とエロチシズムでした。
セザンヌは、人間の奥底に眠る狂気を描こうとしたのでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
暗闇の水際で、男女2人がブロンドの髪の女性を殺そうとしています。今まさに刃を突き立てんとする男。たくましい両腕で被害者を抑えつける女。3人の関係を物語るものはなく、すさまじい殺意だけが、暗鬱な画面から伝わってきます。
威嚇するような空、死体が投げ込まれる川岸の暗示、荒涼とした周囲の空間など、すべてがシーンの威嚇的な性質を助長しています。
本作の三人の人物は三角形を形成しており、その平行な辺は反対方向への力を表しています。男性の殺人者の上着と足の動きから、この瞬間の力強さが伝わってきます。手足も同様の効果を得るために細長く歪んでいます。絵の具の扱いは重く、多くの部分で丸みを帯びています。
セザンヌが描いたのは、人間の奥底に眠る狂気でした。
リバプールのウォーカーアートギャラリー所蔵
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3+

石膏キューピッドのある静物 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌは[キューピッドの石膏像のある静物」を何点か描いていいますが、本作はその内で最も有名になったものです。有名になった理由は、構図が極めてユニークなことにあります。
それでは具体的に観て行きましょう。
一見して気づく通り、空間がかなり歪んで見えます。キューピッドの向う側に見える板のようなものは、床に対して垂直に立っているようでありながら、傾いています。それは床が傾いている為かと思えば、その床も、輪郭が曖昧で、左下の部分では、キューピッドを乗せたテーブルや暗色のクロースとの位置関係が極めて曖昧です。
床なのか、大きな台なのか、区別がつかなくなるばかりか、キューピッドを乗せた台が、この床の上に乗っているのか、それとも別の平面の上にあるのか、区別がつきません。セザンヌは、こうした空間の歪みと錯綜を意識的に楽しんでいるようです。
床、立板、手前の台がそれぞれ直線的に描かれているのに対して、キューピッドや果物は、曲線的に描かれています。直線と曲線との対比を、歪んだ空間との関係で、強調しています。
画面の右上には、しゃがんだ男の肖像の下半身が描かれています。キューピッドと言い、このしゃがんだ男と言い、セザンヌはバロック風の動きのある石膏像と動きのない生物とを対比させることで生まれる効果も楽しんでいるようです。
ただ、生物の中の右上のグリーンの林檎だけは、重力の影響でころがってきそうな印象を受けます。これも空間の歪みが生み出す効果です。極めて構図がユニークな作品です。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵
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3+

誘拐 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ初期(1867年)の作品です。
1866年から71年頃のセザンヌ作品に共通したテーマは、死とエロチシズムでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
冥府の神プルートに誘拐された、プロセルピーヌを描いたものです。プロセルピーヌは後に冥府の女王となりました。
本作はその苛烈な力強さが印象的です。しかし、暫く見ていると、力強さの中に動揺した情熱を秘めているように感じてきます。
人物描写はセザンヌの重要な研究テーマの一つでした。本作のような人物描写を経て、日光に照らされた明るさの中で風景に溶け込む水浴客のような人物描写を描くようになっていきます。
また、セザンヌが世界の神秘性を感じ取ったのは、自然の前でした。セザンヌは何も孤立しては存在しないことを見抜いていました。物には色があり、重さがあり、それぞれの色と質量が他のものの重さに影響を与えます。セザンヌが人生を捧げたのは、この法則を理解するためだったと言われています。
ケンブリッジ大学のフィッツウィリアム美術館所蔵
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2+

ペパーミントボトルのある静物 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌの静物画の中で最も独創的な作品の一つです。
奥行きや水平面を抑えることで、形や色にまとまりを与え、カーテンの曲線と直線の二次的なリズムが、他の物体の線と巧妙に適応しています。
それでは具体的に観て行きましょう。
セザンヌはテーブルの奥行きを抑えており、テーブルの上面は何も見えません。テーブルの上の物は壁のように垂直な平面に吊るされているように見えます。
しかし、セザンヌはこの収縮した空間の中で、あえて透明なガラスを絶妙に描き、そこから何層もの物体を見ることができます。
また、カーテンに複雑な折り目をつけて練り上げ、その隠れた窪みに木や建物のように物を配置しました。
また、水平面を抑えることで、キャンバスの表面にある形や色に、より明確なまとまりを与え、物の物質的な性質、その固さ、重さ、不透明さ、透明さをより好んで使っています。
更にこの絵画には、線の発明においても驚くべきものがあります。
優雅な二重の曲線を描くペパーミントの瓶、シンプルで大きなフラスコは、それにより純粋さと力強さを兼ね備えた2つのメロディーを奏でています。
重く青いカーテンの上には、黒い装飾の魅力的な遊びがあり、曲線と直線の二次的なリズムが、他の物体の線と巧妙に適応しています。またカーテンに内在する模様がわからないように配置されています。それらは自由な線のパターンであり、あるところでは壁やテーブルの線のように硬く、あるところでは瓶のように湾曲し、また蛍光的に、他の場所では枝分かれし、それらは場所によっては自由に浮遊する小さな音符のようです。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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2+

箪笥のある静物 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作は、セザンヌが考え抜いた構造を基に描かれており、それらはまるで生きているように、バリエーションに富んでいます。
それでは具体的に観て行きましょう。
まずテーブルクロスが印象的です。それは山のようであり、岩のような裂け目の塊であり、あるいは人間の姿のようであり、ねじれたり回転したりしています。テーブルクロスの曲がり、折り目、トーンの一つ一つが、隣り合う形や色と緻密に考慮されています。この幻想的なテーブルクロスがなければ、本作は無味乾燥で空虚なものになっていたことでしょう。
また箪笥の暗い縦長の鍵穴は、壺の横長の楕円と対極にあります。これらは、箪笥、テーブル、壁、床における垂直と水平の対比表現となっています。
本作は、パターンに満ちていながらも事前に決められたパターンを持たず、緻密でありながらも予想外の形があり、まるで生きているようにバリエーションに富んだ作品です。
ミュンヘンのノイエ・ピナコテーク所蔵。
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3+

シャンティイの路地 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
本作ではセザンヌのエネルギッシュな筆致で、建築構造の人工的な要素と自然の要素をセザンヌ独特の感覚で融合させています。
それでは具体的に観て行きましょう。
パリ近郊のシャンティイの並木道を描いています。
セザンヌは、家に向かって、トンネルのように突っ込んでいく構造を様々な方法で否定しています。
木々の下の濃密な青い影、遠くの建物の明るさと透明感、そして左右の葉に滲み出る道の不定期な縁は、トンネルの様に見える奥行きを平らにしています。
また、傾斜した屋根の切妻に平行に配置された木の傾斜、葉の天蓋の張り出した縁が建築の水平方向の繰り返しと一致していることなど、後方の屋敷を前面に押し出しています。色彩もまた、キャンバス全体に鮮やかな色彩が戦略的に繰り返されています。
このようにして、セザンヌは空間を崩壊させ、絵画の表面を統一させることで、セザンヌ独自の調和のとれた秩序を作り出したのでした。
本作はセザンヌのエネルギッシュな筆致で建築構造の人工的な要素と自然の要素をセザンヌ独特の感覚で融合させた作品です。
アメリカのトレド美術館所蔵。
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3+

採石場とサントヴィクトワール山 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌはサント・ヴィクトワール山を数多く描いてます。初期の作品では、山は遠くに描かれ、大パノラマの中にあることで、より大きな安らぎを与えていました。
しかし本作では、山は近くに描かれています。しかし、以前よりも更に近づけないようにしています。
それでは具体的に観て行きましょう。
観る者と主な対象との間に奈落の底を置き、その隙間から対岸の岩と聳え立つ山頂を見るように配置することで、風景そのものをドラマチックに描がいています。
しかし、これらは観る者の領域の外にあり、近づくことはできません。山は、まるで木々に囲まれた岩の巨大な台座の上に置かれているようです。
前景の壁は古典的な対称性はなく、複雑でダイナミックな形になっていると同時に、その高さと緊張した上向きの動きは、空間の中でより顕著になっています。凸状の底部にある深い垂直の裂け目が、採石場の壁を二つに分け、大きな圧力の中での落ち着きのない効果を加えています。
山は近くにあるものと同じくらいはっきりとしていて、下にある木々のぼんやりとしたシルエットと比較すると、更にはっきりとしています。そして、前景から遠景に移るにつれて、対象はより大きくなっています。
前景と遠景には似た緑があり、遠く離れた平面を共通のアクセントで結びつけています。オレンジ色の岩と青空というコントラストは、最も遠い空間と最も近い空間を結びつけています。セザンヌ以前の風景画で、オレンジと青がこれほど光り輝くコントラストで描かれているものは殆どなく、セザンヌの革新性が見て取れます。
アメリカのボルチモア美術館所蔵。
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2+