レ・ローヴの庭 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの晩年の作品(1906年)です。
セザンヌの自然に対する深い感情を、抽象的な色彩の連なりで表現した作品です。
本作では構造的な堅固さと構図の調和が共鳴しています。セザンヌは「地平線に平行な線は幅を与え、自然の一断面を表現する。 地平線に垂直な線は奥行きを与える。しかし、自然はその表情よりも深さがある。」と述べています。
また、セザンヌは、ティツィアーノ、レンブラント、ルーベンスの「崇高な妥協」と呼ばれるものについて語ったことがあります。最終的には、セザンヌもこの妥協点に到達するのですが、全く違った新しい方法での到達でした。
それが本作で、セザンヌは自然に対する深い感情を、はるか後の時代の抽象芸術を先取りしているように思えるほど抽象的な色彩の連なりで表現しています。
ワシントンDCのフィリップス・コレクション所蔵
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松と岩 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ(1897年)の作品です。
本作は、風景画でよく見られるような広大な景色とは異なり、タイトな枠に収められた自然の景色です。しかし、本作からは空気感と動きが感じられます。
それでは具体的に観て行きましょう。
低い潅木と巨大な岩が森の防波堤を形成し、松の木の垂直なラインが上向きに伸び、その先の空が見えなくなっています。
一見すると、セザンヌのパレットは青、緑、茶色に限られているように見えますが、よく見ると、黄色、スミレ、赤など、無限の色のバリエーションがあります。
近距離で見ると、絵は抽象的に見え、無数の筆のネットワークが踊っているように見えます。一歩下がってみると、これらの変化に富んだ筆跡は、セザンヌが「光の振動」と呼んでいたような、心を揺さぶるような効果をもたらしています。
空気感と動きが感じられる作品です。
ニューヨーク近代美術館所蔵
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オーヴェルの眺め ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ(1874年)の作品です。
一見すると無造作で雑然とした絵に見えますが、全てが一体となっている作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
オーヴェルの眺めは、ほぼ全方向に、等しく広がっており、高い地平線の下には明確な道も支配的な線もありません。家々、木々、畑などが果てしなく点在していますが、柔らかい緑の平原の中にある村に入るための道はありません。
青、赤、白の強いタッチは小さく散りばめられており、白の量は、しばしば隣接する淡い色と弱く対比され、全体を明るく、柔らかくしています。
パノラマの奥行きは、収束した線ではなく、重なり合った部分の後退により、どんどん小さくなっていきます。地平線の近くには強い緑が、中央の空間には鋭い赤があり、前景と遠景には同じ柔らかな色が現れます。
近い空間と遠い空間の一連の緑の違いは非常に洗練されています。色の強さ、隣り合う色調のコントラストの度合いは、前景と地平線の間のわずかな間隔で変化しています。
前景の青い屋根は弱めの赤と結合し、中間の明るい赤は弱めの青と緑と結合しています。右前景の青に対して黄色、中間距離の緑に対して赤、地平線の水色に対して緑です。このような配色の中で、私たちの視線は、前景と中景の相対的な混沌とした状態から遠景の明晰さへと誘導されます。
この開放的で分散した世界には、自由が感じられます。一見すると無造作で雑然とした絵に見えますが、全てが一体となっているのです。
シカゴ美術研究所所蔵
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僧侶としてのドミニク叔父の肖像 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ(1866年)の作品です。
若き日のセザンヌは、情熱的だが暗く幻想的な絵を何枚も描いています。
それでは具体的に観て行きましょう。
官能的なものと瞑想的なもの、拡張的なものと自己抑制的なもの等、対極にあるものが描かれています。白、グレー、黒の配色で、肉体の無骨さと土の色調を対比させています。白から青みがかった冷たい色調、黄色、赤、茶色の暖かい色調を経て黒へと移っていき、襟元の冷たく突き刺すような青の輝きが全体を明るくしています。
シンプルであるが故に、ある種の壮大さを持っており、絵は空間を埋め尽くしていますが、同時に硬直もし、かつ、その暗さは動きを持っています。
更に、フードの先端は繊細に描かれており、頭部を長くしたり狭くしたりする事で、微妙に軸をずらしています。
この様に描かれたドミニク叔父さんからは、無骨で確信に満ち、かつ、激しさと獰猛さが感じられます。
セザンヌは、母の弟であるドミニク叔父さんを修道士に扮して描くことで、孤独と肉体を表現しようとしたのでした。
ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵
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聖アンソニーの誘惑 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品(1887年)です。
聖アンソニーの誘惑は、ミケランジェロ、ヒエロニム・ボッシュ、サルバドール・ダリ、マックス・エルンストなど、多くの画家に描かれた題材です。
セザンヌもこのテーマで3枚の絵画を描いており、本作はその中で、セザンヌが最後に描いたものです。
それでは具体的に観て行きましょう。
絵の中央に配置された女性は、誇らしげなジェスチャーをしています。この女性は、悪魔が姿を変えたもので、聖アンソニーを誘惑しています。
左側には本物の悪魔が描かれています。この悪魔は、二重の役割を果たしているように見えます。悪魔は聖アンソニーを誘惑しているだけでなく、逆説的に聖アンソニーがしがみついている保護者であるようにも見えます。
オルセー美術館所蔵
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殺人 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ初期(1868年)の作品です。
1866年から71年頃のセザンヌ作品に共通したテーマは、死とエロチシズムでした。
セザンヌは、人間の奥底に眠る狂気を描こうとしたのでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
暗闇の水際で、男女2人がブロンドの髪の女性を殺そうとしています。今まさに刃を突き立てんとする男。たくましい両腕で被害者を抑えつける女。3人の関係を物語るものはなく、すさまじい殺意だけが、暗鬱な画面から伝わってきます。
威嚇するような空、死体が投げ込まれる川岸の暗示、荒涼とした周囲の空間など、すべてがシーンの威嚇的な性質を助長しています。
本作の三人の人物は三角形を形成しており、その平行な辺は反対方向への力を表しています。男性の殺人者の上着と足の動きから、この瞬間の力強さが伝わってきます。手足も同様の効果を得るために細長く歪んでいます。絵の具の扱いは重く、多くの部分で丸みを帯びています。
セザンヌが描いたのは、人間の奥底に眠る狂気でした。
リバプールのウォーカーアートギャラリー所蔵
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石膏キューピッドのある静物 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌは[キューピッドの石膏像のある静物」を何点か描いていいますが、本作はその内で最も有名になったものです。有名になった理由は、構図が極めてユニークなことにあります。
それでは具体的に観て行きましょう。
一見して気づく通り、空間がかなり歪んで見えます。キューピッドの向う側に見える板のようなものは、床に対して垂直に立っているようでありながら、傾いています。それは床が傾いている為かと思えば、その床も、輪郭が曖昧で、左下の部分では、キューピッドを乗せたテーブルや暗色のクロースとの位置関係が極めて曖昧です。
床なのか、大きな台なのか、区別がつかなくなるばかりか、キューピッドを乗せた台が、この床の上に乗っているのか、それとも別の平面の上にあるのか、区別がつきません。セザンヌは、こうした空間の歪みと錯綜を意識的に楽しんでいるようです。
床、立板、手前の台がそれぞれ直線的に描かれているのに対して、キューピッドや果物は、曲線的に描かれています。直線と曲線との対比を、歪んだ空間との関係で、強調しています。
画面の右上には、しゃがんだ男の肖像の下半身が描かれています。キューピッドと言い、このしゃがんだ男と言い、セザンヌはバロック風の動きのある石膏像と動きのない生物とを対比させることで生まれる効果も楽しんでいるようです。
ただ、生物の中の右上のグリーンの林檎だけは、重力の影響でころがってきそうな印象を受けます。これも空間の歪みが生み出す効果です。極めて構図がユニークな作品です。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵
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誘拐 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌ初期(1867年)の作品です。
1866年から71年頃のセザンヌ作品に共通したテーマは、死とエロチシズムでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
冥府の神プルートに誘拐された、プロセルピーヌを描いたものです。プロセルピーヌは後に冥府の女王となりました。
本作はその苛烈な力強さが印象的です。しかし、暫く見ていると、力強さの中に動揺した情熱を秘めているように感じてきます。
人物描写はセザンヌの重要な研究テーマの一つでした。本作のような人物描写を経て、日光に照らされた明るさの中で風景に溶け込む水浴客のような人物描写を描くようになっていきます。
また、セザンヌが世界の神秘性を感じ取ったのは、自然の前でした。セザンヌは何も孤立しては存在しないことを見抜いていました。物には色があり、重さがあり、それぞれの色と質量が他のものの重さに影響を与えます。セザンヌが人生を捧げたのは、この法則を理解するためだったと言われています。
ケンブリッジ大学のフィッツウィリアム美術館所蔵
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ペパーミントボトルのある静物 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌの静物画の中で最も独創的な作品の一つです。
奥行きや水平面を抑えることで、形や色にまとまりを与え、カーテンの曲線と直線の二次的なリズムが、他の物体の線と巧妙に適応しています。
それでは具体的に観て行きましょう。
セザンヌはテーブルの奥行きを抑えており、テーブルの上面は何も見えません。テーブルの上の物は壁のように垂直な平面に吊るされているように見えます。
しかし、セザンヌはこの収縮した空間の中で、あえて透明なガラスを絶妙に描き、そこから何層もの物体を見ることができます。
また、カーテンに複雑な折り目をつけて練り上げ、その隠れた窪みに木や建物のように物を配置しました。
また、水平面を抑えることで、キャンバスの表面にある形や色に、より明確なまとまりを与え、物の物質的な性質、その固さ、重さ、不透明さ、透明さをより好んで使っています。
更にこの絵画には、線の発明においても驚くべきものがあります。
優雅な二重の曲線を描くペパーミントの瓶、シンプルで大きなフラスコは、それにより純粋さと力強さを兼ね備えた2つのメロディーを奏でています。
重く青いカーテンの上には、黒い装飾の魅力的な遊びがあり、曲線と直線の二次的なリズムが、他の物体の線と巧妙に適応しています。またカーテンに内在する模様がわからないように配置されています。それらは自由な線のパターンであり、あるところでは壁やテーブルの線のように硬く、あるところでは瓶のように湾曲し、また蛍光的に、他の場所では枝分かれし、それらは場所によっては自由に浮遊する小さな音符のようです。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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