フォリー・ベルジェール劇場のバー エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1882年頃)です。本作はマネが世を去る前年に完成させた作品で、最後の大作と言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
場面は当時流行に敏感な人々が挙って集ったパリで最も華やかな社交場のひとつであったフォリー・ベルジェール劇場のバーです。中央に描かれたバーメイドの後ろに鏡があり、そこに写るミュージックホールの様子が描かれています。当時、フォリー・ベルジェール劇場ではバレエや曲芸などが行われており、絵の左上には空中ブランコに乗った人物の足が見えます。
平面的でありながら空間を感じさせる絵画的な空間構成や、バーメイドの魅惑的とも虚無的とも受け取ることのできる独特な表情は、観る者をフォリー・ベルジェール劇場の世界へと惹き込みます。パリという都会の中で興じられる社会的娯楽を的確に捉え、そのまま切り取ったかのような作品です。技法的にも、大胆に筆跡を残す振動的な筆さばきや色彩などが素晴らしく、中でも画面前面に描かれる食前酒など様々な酒瓶、オレンジや花が入るクリスタルのグラスなどの静物は秀逸の出来栄えです。
そして、マネは本作で当時のパリ社会の虚構・虚像(裏面)を描こうとしました。
バーメイド正面の姿と後ろ姿が一致しないことや、遠近法の歪み、あまりに右側に描かれたバーメイドの後ろ姿など、一見、不可解な描き方をしています。それは意図的に計算されたもので、例えば遠近法を無視することで、鑑賞者の視線がバーメイドの空虚な表情(パリ社会の虚構・虚像を示すもの)に集まるように工夫されているのです。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵
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横たわるタヒチの女 ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1897年)です。
本作はゴーギャンの第二次タヒチ滞在中の名作で、ゴーギャンは第二次タヒチ滞在中に現地で没しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
上部やや左側の窓に悪魔の鳥として、青い鳥が描かれており、横たわる裸婦を見張っています。そして裸婦は、恐々とした表情を浮かべながら視線を鳥の方へと向けており、その背後では二人の女性が密談を交わしています。
ゴーギャンは「単純な裸体によって、ある種の野蛮な豪華さを暗示したかった。全体はわざと暗く悲しい色彩の中に沈んでいる。この豪華さをは絹でもビロードでも麻でも金でも馬鹿な女でもない。純粋に画家の手で紡ぎだされた豊かな質感である。人の創造力のみがこの空想上の住居を飾ることができるのだ」と述べています。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵
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石膏キューピッドのある静物 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌは[キューピッドの石膏像のある静物」を何点か描いていいますが、本作はその内で最も有名になったものです。有名になった理由は、構図が極めてユニークなことにあります。
それでは具体的に観て行きましょう。
一見して気づく通り、空間がかなり歪んで見えます。キューピッドの向う側に見える板のようなものは、床に対して垂直に立っているようでありながら、傾いています。それは床が傾いている為かと思えば、その床も、輪郭が曖昧で、左下の部分では、キューピッドを乗せたテーブルや暗色のクロースとの位置関係が極めて曖昧です。
床なのか、大きな台なのか、区別がつかなくなるばかりか、キューピッドを乗せた台が、この床の上に乗っているのか、それとも別の平面の上にあるのか、区別がつきません。セザンヌは、こうした空間の歪みと錯綜を意識的に楽しんでいるようです。
床、立板、手前の台がそれぞれ直線的に描かれているのに対して、キューピッドや果物は、曲線的に描かれています。直線と曲線との対比を、歪んだ空間との関係で、強調しています。
画面の右上には、しゃがんだ男の肖像の下半身が描かれています。キューピッドと言い、このしゃがんだ男と言い、セザンヌはバロック風の動きのある石膏像と動きのない生物とを対比させることで生まれる効果も楽しんでいるようです。
ただ、生物の中の右上のグリーンの林檎だけは、重力の影響でころがってきそうな印象を受けます。これも空間の歪みが生み出す効果です。極めて構図がユニークな作品です。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵
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耳を切った自画像 ファン・ゴッホ

オランダのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホの代表作のひとつです。
ゴッホとゴーギャンは、南フランスのアルルで共同生活を始めますが、対象を見ながら制作したゴッホに対し、ゴーギャンは描く対象の写実的表現を否定していた為、両者は対立してしまいます。
精神的に追い詰められていたゴッホは、遂にゴーギャンと芸術論で激論を交わし、両者の間には決定的な溝が生じてしまします。そして、アルルの家を出ていくゴーギャンをゴッホは追いかけ、ゴーギャンを一目した後、剃刀で自身の耳を切り落とし娼婦ラシェルのもとへ届けるという「耳切り事件」をおこしてしまいます。
本作品は、この事件直後に描かれた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
ゴッホの特徴である太く絵具の質感を残した独特の筆触で描写される本作のゴッホは、包帯で巻かれる顔側部など痛々しい様子で描かれています。その表情やゴッホ自身へと向けられる視線は冷静であり、一見すると落ち着きを取り戻したかのようにも見えます。しかし、この事件以降、ゴッホは幻覚と悪夢にうなされるようになり、その症状は生涯続いたと伝えられています。
また背後には浮世絵『芸者』が飾られており、鮮やかで明るさの増した色彩と共に、ゴッホの日本趣味への傾倒も見られます。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵。
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松の木があるサント=ヴィクトワール山 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの代表的な風景画です。
セザンヌは同じテーマを繰り返して描くことが多い画家で、「サント=ヴィクトワール山」も数多く描いています。
本作品で注目される点は、松の構造的連続性と色彩の調和的表現と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面左側に配される松の大樹は、大きく存在感を示しているものの、枝に茂る針葉は空の青灰色と調和するように描かれています。
また針葉の鮮やかな緑色は、中景に広がる田畑と呼応しており、色彩的な統一感と構成要素同士の連動性を生み出しています。
特に下地に塗られた明灰黄色を活かした、やや淡白で平坦的な調和的色彩表現は革新的で、後のピカソを始めとするキュビズムの画家たちに大きな影響を与えました。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵。
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