酋長の未亡人

18世紀イギリスの画家、ジョセフ・ライトの作品です。ジョセフ・ライトは、光と闇の対比を強調する明暗法の扱いに優れ、ロウソクで題材を照らした作品が有名です。
さて、具体的に観て行きましょう。
偉大な酋長の死を惜しむかのような、稲妻走る空、噴煙を上げる火山が描かれています。しかし電雲につつまれた空も未亡人の背後だけは雲が切れて明るく輝き、
そのシルエットを浮かび上がらせています。光と闇の扱い方が素晴らしく、未亡人からは高貴な雰囲気が漂ってきます。
ダービー美術館所蔵。
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山上の十字架

18世紀から19世紀のドイツロマン派の画家、カスパル・ダーヴィト・フリードリヒの作品です。
フリードリヒの風景画は「悲劇的な風景画」と呼ばれ、厳しい自然に対する恐怖や恐れをキャンバスに描きました。その風景画は、内省的で孤独感や閉塞感に溢れていますが、同時に心象的、宗教的なメッセージも伝わってきます。
では、具体的に観て行きましょう。
額縁はいかにも祭壇画にふさわしく、最後の晩餐のパンとぶどう酒を意味する麦、(パン)とぶどうが描かれています。しかし、その中に収められた絵は、十字架が山の頂上に描かれているものの、風景に過ぎません。
風景を描いた絵が、本来は許されない祭壇画に祭り上げられていることは、驚くべきことでした。しかしそれは、「神の神性が最も見出されるのは自然界である」というフリードリヒの信念を反映しています。
ドレスデン近代絵画館所蔵。
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月を眺める二人の男

18世紀から19世紀のドイツロマン派の画家、カスパル・ダーヴィト・フリードリヒの作品です。
フリードリヒの風景画は「悲劇的な風景画」と呼ばれ、厳しい自然に対する恐怖や恐れをキャンバスに描きました。その風景画は、内省的で孤独感や閉塞感に溢れていますが、同時に心象的、宗教的なメッセージも伝わってきます。
では、具体的に観て行きましょう。
明るい背景と暗い前景が特徴的な作品です。柔らかな色彩で夕暮れを感じさせる空と暗い森のシルエットの中にいる2人の人物。
孤独感が漂う作品ですが、同時に、後景の空は非合理的で崇高な無限であり、前景の森と人は合理的で触知可能な地上空間であることを伝えています。
ドレスデン美術館所蔵。
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氷海(希望号の難破)

18世紀から19世紀のドイツロマン派の画家、カスパル・ダーヴィト・フリードリヒの代表作です。
フリードリヒの風景画は「悲劇的な風景画」と呼ばれ、厳しい自然に対する恐怖や恐れをキャンバスに描きました。その風景画は、内省的で孤独感や閉塞感に溢れていますが、同時に心象的、宗教的なメッセージも伝わってきます。
では、具体的に観て行きましょう。
寒々とした北の海に分厚い氷が積み重なり、まるで墓標のようにも見える大きな氷塊の中に無力な船「希望」が描かれています。そこには一木一草もなく、生命の息吹が途絶え、何ひとつとしてない無音の世界です。
なんとも閉塞感の漂う作品ですが、同時に氷の層は、天をめざし、やわらかな光に包まれていることから、希望は決して失っていないというメッセージが伝わってきます。
ハンブルク美術館所蔵。
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夢魔

18世紀後半から19世紀前半にイギリスで活躍したドイツ系スイス人のロマン派画家、ヨハン・ハインリヒ・フュースリの代表作です。
フュースリは超自然を好み、万事を空想上の尺度に置き換え、絵画を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
上半身をのけぞらせて、ベッドから落ちてしまいそうな女性。彼女の上には怪異な悪魔がうずくまって、じっとこちらを見据えています。そして、赤いカーテンの間から頭だけをのぞかせている不気味な馬が夢魔です。
女性の白の衣服との対比が印象的な作品です。この絵画は大人気となり、多くの複製が作られたそうです。
デトロイト美術館所蔵。
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サンタンジェロ城の花火(ジランドール)

18世紀イギリスの画家、ジョセフ・ライトの作品です。
ジョセフ・ライトは、光と闇の対比を強調する明暗法の扱いに優れ、ロウソクで題材を照らした作品が有名です。
この作品は、ジョセフ・ライトがイタリアへ旅した時に目撃した、ローマの大掛かりな花火に刺激を受けて描いた作品です。
手前の建物はサンタンジェロ城、その向こう側に見えるのがサン・ピエトロ寺院です。しかし、主役は、その間に打ち上げられた夜空を焦がす花火です。花火の光と夜空の闇の対比が見事です。
リバプールのウォーカー美術館所蔵。
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反逆天使たちを呼び覚ますサタン

18世紀イギリスの詩人、画家、銅版画職人、ウィリアム・ブレイクの作品。
ブレイクは英国ロマン主義の先駆者と言われています。
生きている間は、その独特で難解な作風のために狂人と見なされ、美術界や文学界から無視されていましたが、後に作品に秘められた哲学的で神秘的な意味とその創造力が再発見され、現在では、英国で最も重要な芸術家の一人とされています。
さて、本作は詩人ジョン・ミルトンの叙事詩「失楽園」(*1)を基に作成された挿絵の内の一つで、地獄の底で横たわっている天使たち(反逆天使)に向かって、「お前達よ起きろ!」と悪の主人公サタン(ルシファー)が呼び起こしている場面です。そして、「ひとまず住居を作ろう!」と彼らは地獄の資源で宮殿パンデモニウムを作りあげてしまいます。
古代彫刻を思わせるサタン(ルシファー)の凛とした男性美と、彼の足元でうずくまり、横たわる無気力な反逆天使との対照が印象的な作品です。
ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館所蔵。
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※1:失楽園は、イギリスの17世紀の詩人ジョン・ミルトンによって書かれた叙事詩で、旧約聖書の「創世記」を踏襲して作成されています。
神に反抗心を持つサタン(ルシファー)は志を同じくする天使と共に神に反逆し、敗北して反逆天使(悪魔)となります。
サタン(ルシファー)は反逆天使たちと共に神への復讐を考え、人間アダムとイブを堕落させることを思い付きます。かくしてサタン(ルシファー)は蛇の姿となってイブに禁断の実を食べるようそそのかし、彼女はその実を食してしまいます。

ニュートン

18世紀イギリスの詩人、画家、銅版画職人、ウィリアム・ブレイクの作品。
ブレイクは英国ロマン主義の先駆者と言われています。
生きている間は、その独特で難解な作風のために狂人と見なされ、美術界や文学界から無視されていましたが、後に作品に秘められた哲学的で神秘的な意味とその創造力が再発見され、現在では、英国で最も重要な芸術家の一人とされています。
さて、本作は科学一辺倒の当時の世相を批判し描かれた作品です。
ブレイクは物理学者アイザック・ニュートンを、全てを理性と論理で割り切ろうとする嘆かわしい存在と考えました。
薄暗い海底で、下等な生物と共にニュートンがコンパスを用いて物質世界の解明を試みていますが、その体は岩と同化を始めています。ニュートンの鋭い視線とコンパスを握っている手・指が何とも言えない雰囲気を醸し出しています。
ロンドンのテート・ブリテン所蔵。
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人生航路:青春期

19世紀アメリカのハドソン・リバー派(※1)の画家トマス・コールの作品です。
コールは、ロマン主義と自然主義をテーマに、現実的かつ詳細な描写により、アメリカの風景と自然を表現しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
この作品は、人間の誕生から死に至るまでの一生を船旅に例え製作した4連作の一つです。
綺麗な風景の中に、一人の青年と天使、そして遠くの空には青年の野心と夢を表す白く揺らめく光の様な幻の城が浮かび上がっています。
青年の後ろで手を差し伸べているのは天使だろうか。
そんな天使の存在には気づかず、青年は空に手を伸ばし、蜃気楼の城に近づこうとしています。
ワシントンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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※1:ハドソン・リバー派とは、ロマン派の影響を受けたアメリカの風景画家のグループによる、19世紀中頃の美術運動の事です。

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