アモルとプシュケ

18世紀のフランスを代表する新古典主義の画家、フランソワ・ジェラールの代表作です。ジェラールは、基本に忠実な形態描写と対象を的確に捉えながらも理想化した、新古典主義の作品を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作の主題「プシュケとアモル」は、美の女神ヴィーナスも嫉妬するほどの美貌の持ち主の王女プシュケに恋をした愛の神アモル(キューピッド)の物語です。
愛の神アモルはプシュケをやさしく抱き寄せその額へ口付けをおこなっています。しかし、王女プシュケは接吻をおこなうアモルの方には目を向けず、視線は宙を彷徨っています。王女プシュケには、愛の神アモルは見えないのです。古代から魂を意味するモティーフとして使われる蝶が、二人の頭上を舞っています。
・大理石を思わせるような滑らかで美しいプシュケやアモルの肌の描写。
・動性を感じさせることのない徹底した姿態の純化と人工的表層描写。
・絶妙に画面全体へと拡散するアモルとプシュケ甘美的な官能性。
・牧歌的かつ自然な背景の風景表現など、
新古典主義作品として、極めて完成度が高いと評されている作品です。
ルーブル美術館所蔵。
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リヴィエール嬢の肖像

19世紀フランス絵画界の新古典主義の巨匠、ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルが23歳の時に描いた作品です。
アングルは、モデルの性格や容姿を繊細にくみ取り、表情や立ち振る舞いを絵画に表現しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
モデルは清楚な15歳の少女です。背景に広々としたルネサンス風の牧歌的風景が描かれています。左右に広がる森林や湖の描写によって水平を強調しつつ、教会の尖塔の垂直が絶妙なアクセントとなっいます。また、晴朗な空にくっきりと顔を浮かび上がらせることで、大きな黒い瞳と三日月状の太い眉を際立たせ、そして、空の青と衣装の白の対比により、少女の清楚な雰囲気を見事に表現しています。
ルーブル美術館所蔵。
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トルコ風呂

19世紀フランス絵画界の新古典主義の巨匠、ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルが手がけた裸婦作品の集大成的作品です。
アングルは、ルネサンスの古典を範と仰ぎ絵画制作の基礎としました。色彩や明暗よりも形態を重視し、また忠実に模写することよりも自分の美意識に沿って絵画を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央前景には優雅に楽器を奏でる女性、ソファーへ寝そべる女性、髪に香油を付ける女性などが配されています。また、後景には音楽に合わせて踊る者、会話を楽しむ者、飲食する者など様々な女性たちが描かれています。
女性たちの手足や胴体は、アングルの美意識に沿ってゆがんで描かれており、女性たちの気だるくくつろぐ姿を見事に表現しています。
本作の豊潤な官能性や肉体描写はポール・セザンヌを始め、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、アンリ・マティス、パブロ・ピカソなど後世の画家たちに多大な影響を与えました。
ルーブル美術館所蔵。
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グランド・オダリスク

19世紀フランス絵画界新古典主義の巨匠ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルの代表作です。
アングルは、ルネサンスの古典を範と仰ぎ絵画制作の基礎として尊重しました。また、色彩や明暗よりも形態を重視し、忠実に模写することよりも自分の美意識に沿って絵画を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
アングルは、美と官能性を作り出すために、女性の背中に見られるような、引き伸ばされ、曲がりくねった線を好んで用いました。また光が一様に当てられた裸婦のボリューム感は、奥行きのない空間の中で抑えられています。
こうした線描の抽象化とは対照的に、布地の質感といった細部は、本物と見紛うほど写実的に描かれています。
アングルの美意識に沿って、抽象性と写実性が逆説的に組み合わされた作品です。
ルーブル美術館所蔵。
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アモル(キューピット)を売る女

18世紀フランスの新古典主義画家、ジョゼフ=マリー・ヴィアンの代表作です。
ヴィアンは、ダヴィッドを含め1740年以降に生まれた大画家たちが師と仰ぐ人物です。
それでは具体的に観て行きましょう。
左側の女商人が手にしているのは、背中に翼の生えたアモル(キューピット)たちです。右側には取り出されたアモルへ興味深く視線を送る上品で裕福そうな身なりの女性と、付き人の女が描かれています。
構図的にはグラニャーノ遺跡の壁画を左右反転させて流用しており、垂直と水平が強調された厳格な場面展開であるものの、作品からは簡素的で軽妙な雰囲気や表現も感じることができます。
これらの特徴を併せ持つ本作は、新古典主義の萌芽的作品です。
フランスのフォンテーヌブロー宮殿所蔵。
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19世紀フランス絵画界新古典主義の巨匠ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルの代表作です。
アングルは、ルネサンスの古典を範と仰ぎ絵画制作の基礎として尊重しました。また、色彩や明暗よりも形態を重視し、自然を忠実に模写することよりも自分の美意識に沿って画面を構成しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央に配される泉の擬人像は正面を向きつつ首を右側に傾げ、下がった左肩に水が流れ出る水瓶を乗せながら全身をS字にしてバランスをとっています。
体の重心を左足にのせ、もう片方を遊脚にすることで、全身をS字形に流曲させる姿態は、古代ギリシャの彫刻家が祖とされ、新古典主義の典型的な作品と言えます。
また、皺ひとつない大理石を思わせる滑らかな肌や皮膚、均整的で理想化を感じさせる調和的な裸婦の肉体、無駄がなく明快で理知的な構図と正面性、動きの少ない安定した画面構成など、芸術におけるひとつの完成形として、後世の画家たちに多大な影響を与えた作品です。
オルセー美術館所蔵。
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レカミエ夫人の肖像

18/19世紀のフランス新古典主義の画家、ジャック・ルイ・ダヴィッドの傑作です。新古典主義の肖像画の最高傑作のひとつとも言われています。
ダヴィッドは、デッサンと形を重視し、理性を通じた普遍的価値の表現を追求(新古典主義)した画家です。
それでは具体的に観て行きましょう。
モデルは、裕福な銀行家の妻で、パリ社交界の花と言われた、ジュリエット・レカミエ夫人です。当時、上流階級の女性の間で流行した古代風の質素な衣装に身をまとい、古代人の習慣に従って長椅子に横たわっています。
全体像を遠くから、そしてレカミエ夫人の顔を小さく描くことで、ひとりの人物の表現よりも、女性の優雅さと気品を強調しています。
個性の表現と理想化が見事に調和した作品です。
ルーブル美術館所蔵。
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戦車の上からダンテに語りかけるベアトリーチェ

18世紀イギリスの詩人、画家、銅版画職人、ウィリアム・ブレイクの作品。
ブレイクは英国ロマン主義の先駆者と言われ、作品に秘められた哲学的で神秘的な意味とその創造力から、英国で最も重要な芸術家の一人とされています。
さて、本作はダンテ(※1)の叙事詩「神曲」第29・30曲の挿絵です。
獅子の胴体に鷹の頭と翼と渦を巻く車輪をつけた戦車を引くグリフォン(※2)が中央に据えられています。台の上に立つのはベアトリーチェ(※3)で、画面の右下に立つのがダンテです。車がダンテの前で止まり、花の雲の中にベアトリーチェの姿を認めるシーンを描いています。
個々の幻想的なイメージ、水彩による淡く美しい色彩、曲線の装飾性など、ブレイクの創造性が際立つ作品です。
ロンドンのテート・ギャラリー所蔵。
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※1:ダンテは、13、14世紀のフィレンツェ出身の詩人、哲学者、政治家。イタリア文学最大の詩人と言われています。
※2:グリフォンは、鷲(あるいは鷹)の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ伝説上の生物。語源はギリシア語のグリュプスで、曲がった嘴の意味です。
※3:ベアトリーチェは、 ダンテの叙事詩「神曲」の登場人物です。

19世紀のドイツ・ロマン主義を代表する画家、フィリップ・オットー・ルンゲの作品です。
ルンゲは自然の中から、自分が神性を感じるものを表象として用い、それらを再構成して絵画を描きました。
ルンゲの描く風景画は、自然を写し取ったものでも、フリードリヒのように自然の背後にある神性を捉えようとしたのでもなく、自分が目にする(神性を感じる)世界と神を感じるままに結びつけ描きました。
それでは、具体的に観て行きましょう。
広い野原に朝日が差し、空は曙色を残しながらも、金色から青に変わりつつあります。その空に髪をなびかせ舞うのは、曙の女神アウローラです。
草地には生まれて間もない朝の子供が光を浴びて横たわります。これが、ユンゲが感じた、人間社会と神が結び付いた一場面でした。
ハンブルク美術館所蔵。
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