テュイルリー公園の音楽祭 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの初期作品(1862年頃)です。本作はパリのテュイルリー公園で開催されたコンサートに集まる人々を描いたもので、マネの写実主義(※1)的な思想による絵画表現がより明確に示されている作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は、「現代社会の英雄性」を描くべきだとする友人シャルル・ボードレールの主張から着想を得たと考えられる作品で、マネ自身はもとより、家族、友人、知人、同輩などを始めとした、当時のブルジョワ層の人々が描かれています。左端にはマネ本人の半身が傍観者のように描かれ、その隣にはマネの友人で画家であったバルロワ卿アルヴェールがステッキを持った姿で描かれています。さらに隣には評論家ザカリー・アストリュクが椅子に腰掛ける姿が描かれています。前景の二人の青帽子の女性は、軍事司令官の妻ルジョーヌ夫人と作曲家オッフェンバックの妻ジャック・オッフェンバック夫人で、その背後にはアンリ・ファンタン=ラトゥールやボードレールを始めとした写実主義者の一行が見えます。また画面中央やや右寄にマネの弟ウジェーヌの姿を配し、その隣には眼鏡をかけた口髭の作曲家オッフェンバックが、そして帽子を上げ挨拶する画家シャルル・モンギノの姿が描かれています。
群集肖像画とも呼べる本作は、1863年、マルティネ画廊での個展で、展示されましたが、下絵のような荒々しいタッチが不評を招き、「縁日の音楽が耳を傷つけるように、目を傷つける」作品であると批判されたのでした。一方、フレデリック・バジール、クロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワールといった若い画家たちは、人々のありのままの姿を描いた事に新しさを見出し、後の印象派の一つの起源となりました。
そして、マネの写実主義への転換期における重要な作品のひとつと位置付けられています。
※1:写実主義:実の自然や人間の生活を客観的に描写しようとする様式。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵
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騎士の夢 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年頃)です。本作は快楽と美徳のどちらかを選ばなければならないという夢を見たローマの将軍、スキピオ・アフリカヌスを(紀元前236~紀元前184)表していると考えられています。2人女性が持っている、花、剣、本などは、騎士の思想的属性を表現していると考えられています。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作には、美しい木の下で眠る騎士と、それを支える二人の女性が描かれています。女性の一人は剣と本を持ち、もう一人は花を持っています。2人女性はそれぞれ、美徳(険しくごつごつした道を背にしている女性)と、快楽(ゆったりとした服を着ている女性)を表現しています。騎士は、夢の中で美徳と快楽の二者択一を迫られているローマの英雄スキピオ・アフリカヌスを表していると考えられています。
また、本作の寓話の起源は、有名なラテンの詩人シリウスによるポエニ戦争を描いた叙事詩「プニカ」のある一節であると言われています。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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アレキサンドリアの聖カタリナ ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1507年頃)です。
アレキサンドリアの聖カタリナは、キリスト教の聖人で殉教者で、 正教会では聖大致命女エカテリナとして敬われ、ローマ・カトリックでは伝統的に『十四救難聖人』の一人とされています。聖カタリナは、数多くの画家に描かれていますが、その中でも特に評価が高いのが、本作です。
それでは具体的に観て行きましょう。
緑、赤、青、黄などの色をふんだんに使った衣装を身にまとっています。右手は胸元を覆い、左手はドレスの太もも付近を掴んでいます。背景は穏やかで、澄んだ青い空と川のようなものが見え、さらに背景には木々や山があります。聖カタリナ本人は上を向いており、その目は深く考え込んでいる人を表しています。また、彼女は殉教の象徴である車輪の破損を表す車輪にもたれかかっています。
この作品は、光、色、変化にあふれ、調和のとれた動きのある豊かな構成になっており、かつ、鑑賞者の感情を喚起することを避けた作風を継承しています。ラファエッロは、常に作品を通して感情を和らげることを意識し、絵画に感情的なトーンをもたらすような特徴を避けていました。
更に、ポーズ、色、デザイン、表情のバランスが絶妙にとれています。装飾的な要素と象徴的な要素の間で芸術的なバランスをとっています。また、車輪を絵の中に入れることで、空間的な奥行きの印象を強めています。聖カタリナの足元に置かれた車輪は、その位置によって聖カタリナを上昇させる効果があり、それは殉教者としての勝利を意味しています。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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モンドの磔刑図 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの初期の作品(1502年頃)です。ラファエッロは、本作の中で、十字架に架けられたキリストの死の辛さや恐ろしさに焦点を当てるのではなく、聖変化の教義(※1)を表現しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作はカステッロ市のサン・ドメニコ教会の祭壇画で、十字架にかけられたイエス・キリストと6人の人物が描かれています。死にかけているにもかかわらず、キリストは穏やかな表情をしています。キリストの血を聖杯で受け止めている2人の天使。キリストから見て左側には、跪くマグダラのマリアとその後ろに佇む福音書記者ヨハネがいます。
反対側には聖母マリアが立ち、祭壇に祀られていた聖ヒエロニムスが跪いています。二人の天使は雲の上に立っているので、空にはエーテルのような雰囲気があり、この絵の上部にある月と太陽は、地と天を結びつけています。
この作品は、キリストが十字架の上で耐えた痛みや苦しみを無視し、足と手と脇腹の傷を除いて、汚れのない平和な状態で描かれています。ラファエッロは、十字架に架けられたキリストの死の辛さや恐ろしさに焦点を当てるのではなく、聖変化の教義(※1)を表現したのでした。芸術は、恐ろしいものを美しく見せることができることを実証した作品です。
※1:パンとぶどう酒がキリストの体や血に変化すること
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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アンシデイの聖母 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年)です。
本作はラファエッロ・サンツィオがフィレンツェ滞在時代に描いたもので、ロンドンのナショナル・ギャラリーで、最も人気の高い作品のひとつです。
それでは具体的に観て行きましょう。
ウンブリア画派(※1)の影響を受け描かれた作品です。
ポプラ板に油彩で描かれた板絵で、幼児キリストを抱き木製の玉座に座する聖母マリアが描かれています。マリアから見て右側には洗礼者聖ヨハネが、左側には書物に目を通すバーリの聖ニコラウスがそれぞれ配されています。
聖母マリアはキリスト教徒が日常の祈りの際に模範とすべき文章を集めた書物「祈祷書」を熱心に読んでいる姿で描かれ、信仰の重要さを表現した祭壇画として評価されてきました。玉座の上には「万歳、キリストの御母」と書かれています。
※1:ウンブリア画派:ルネサンス期,中部イタリアのウンブリア地方で活動した画家たちの総称。早くからシエナ派やフィレンツェ派と交流し,古典的で荘重な画風のなかに甘美な幻想を維持しているのが特色。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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プロヴァンスの山 ポール・セザンヌ

フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品です。
セザンヌは、自然を、私たちが目にしているのに分解することはできない、堅固で安定した存在として捉えていました。本作は、セザンヌが捉えた自然を表現した作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
前景がむき出しになっており、海を行き交う船から見たゴツゴツした海岸のような風景が描かれています。
美しく構成された風景からは、大きな広がりが感じられます。切り立った割れた岩は、ドラマチックに光を放ち、光の中では赤みを帯び、影の中では灰色をなしています。
観る者の視線は、手前の曲がりくねったギザギザの木から、丸みを帯びた丘の木へ、そしてその先の淡い空虚へと誘導されます。
本作を観ていると、自然は、対立する不安定な力の究極的なバランスで成り立っている事を感じます。しかし、それぞれは非常に複雑であり、隣接する形や色調と多くの関係を持っており、個々の部分として分離することはできません。
セザンヌは、自然を、私たちが目にしているのに分解することができない、堅固で安定した存在として捉えていたのでした。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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トビアスと天使 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
ダ・ヴィンチが修行していた、アンドレア・デル・ヴェロッキオの工房で1470年代前半に祭壇画のために制作されたものです。
ダ・ヴィンチが描いた現存する最初の絵画と言われています。
主題は旧約聖書からとられており、父に頼まれて旅に出たトビアスに大天使ラファエルが守護神として同行する場面を描いています。
当時の上流階級では、遠方へと旅立つ息子のために、本主題に基づく絵画の制作を画家へ依頼することが多かったそうです。本作に登場する2人は、当時の流行の服装を身に付けています。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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アルルのゴッホの椅子 ファン・ゴッホ

オランダのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホの作品です。
ゴッホ作の「ゴーギャンの肘掛け椅子」と同時期に作成された作品です。同作は夜の時間帯を描いていますが、本作では昼の時間帯で描かれています。
具体的に観て行きましょう。
やや高い視点から斜めに黄い木椅子が描かれており、その上にはゴッホが当時愛用していたパイプ煙草が載せられています。主題である簡素な黄い椅子と対比させるかのような床の赤褐色や壁や扉の青緑色、そして椅子と呼応させている木箱に入った玉葱などにより、椅子の存在感を際立たせるている作品です。
しかし、どこか悲し気な雰囲気が漂う作品です。この時期、ゴッホはゴーギャンと南フランスのアルルで共同生活を始めましたが、うまく行かず、ゴッホが喪失感や失望を感じていることを、本作品から感じるのは私だけでしょうか?
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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アニエールの水浴 ジョルジュ・スーラ

新印象派の創始者で、点描という新たな様式を確立した19世紀末フランス画家、ジョルジュ・スーラのデビュー作です。
スーラは合理的で数学的なものへの情熱を絵画へ注ぎ、構図、色彩、光などの緻密な計算を基に絵画を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。画面前景には、川岸で寝そべったり、体育座りをしたりしてゆったりとくつろいでいる男性の他に、川の中に入って水浴びをしている少年の姿が描かれています。
物の色彩には、光が直接当たる部分や陰になる部分、反射光や周囲の色の影響を受ける部分、対象の周囲に感じられる補色などがあります。スーラは、それらの色彩を可能なかぎり精細に分析し、それぞれに応じた量の色の点を粘り強く画面に並べ、好天の日の長閑な情景を表現しました。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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