ロンシャンの競馬場 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1866年頃)です。本作は、競馬場にいる鑑賞者を、疾走する馬の前に配置するという画期的な作品で、マネの絶頂期の作品の一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
パリ郊外のブローニュの森で行われたレースの日を描いています。フランスの現代生活を描こうとしたマネにとって、ロンシャン競馬場はパリの新名所でした。
マネは、レース当日の賑やかな様子をパノラマで描こうとしました。従来はレース中の馬を横にして描くのが普通でしたが、マネは馬を描く角度を工夫して、鑑賞者をレースに引き込むように描きました。そして、右側のスタンドなど、シャープに描かれた要素と、馬の群れという印象派的なぼかしが組み合わされています。
またマネは、前景にあるものにより多くの絵の具を使い、背景や絵の中で重要でない部分にはより薄い絵の具を重ねる傾向がありました。これにより、絵の中の重要な部分に注意が向けられます。微妙な色使いや、絵の中の暗い部分と明るい部分のコントラストを強めることで、形や質量を表現しました。
アメリカのシカゴ美術研究所所蔵
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ガラス花瓶の中のカーネーションとクレマチス エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの静物画の代表作(1883年頃)です。
本作に描かれているのは、ガラスの花瓶に入れられたナデシコ科ナデシコ属の多年草で、母の日に贈られる花としても知られるカーネーションと、キンポウゲ科センニンソウ属の蔓性多年草で、観賞用として最も人気の高い蔓性植物のひとつでもあるクレマチスです。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面のほぼ中央に配されるやや背の高い台形型のガラス花瓶に、葉のついたままの大きく花開いたクレマチスがガラス口付近に活けられています。さらにその背後にはカーネーションが数本配され、日本美術の影響を感じさせる飾り気の無い簡素な配置です。
クレマチスとカーネーションの構成的なバランスや絶妙な配色、そして画面の中に躍動感をもたらしている左右のクレマチスの葉の展開は特に優れた出来栄えです。
花が活けられたガラス花瓶の中で、水を通り微妙に変化する光の描写や質感表現は、闊達で力強さを感じさせる筆触の効果も手伝い非常に表情豊かに描かれています。
最晩年期のマネは体調を著しく悪化させ大作を手がけることは困難な状況にあり、その為、室内に飾られていた花を描くことが多くなっていました。本作はそのような状況で描かれたマネの作品であり、「花」の画題にはマネの安堵や癒しを求める姿勢を窺い知ることができますが、逆に短命な花と自身の置かれた状況に対する心情を重ねたとも考えられています。
オルセー美術館所蔵
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フォリー・ベルジェール劇場のバー エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1882年頃)です。本作はマネが世を去る前年に完成させた作品で、最後の大作と言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
場面は当時流行に敏感な人々が挙って集ったパリで最も華やかな社交場のひとつであったフォリー・ベルジェール劇場のバーです。中央に描かれたバーメイドの後ろに鏡があり、そこに写るミュージックホールの様子が描かれています。当時、フォリー・ベルジェール劇場ではバレエや曲芸などが行われており、絵の左上には空中ブランコに乗った人物の足が見えます。
平面的でありながら空間を感じさせる絵画的な空間構成や、バーメイドの魅惑的とも虚無的とも受け取ることのできる独特な表情は、観る者をフォリー・ベルジェール劇場の世界へと惹き込みます。パリという都会の中で興じられる社会的娯楽を的確に捉え、そのまま切り取ったかのような作品です。技法的にも、大胆に筆跡を残す振動的な筆さばきや色彩などが素晴らしく、中でも画面前面に描かれる食前酒など様々な酒瓶、オレンジや花が入るクリスタルのグラスなどの静物は秀逸の出来栄えです。
そして、マネは本作で当時のパリ社会の虚構・虚像(裏面)を描こうとしました。
バーメイド正面の姿と後ろ姿が一致しないことや、遠近法の歪み、あまりに右側に描かれたバーメイドの後ろ姿など、一見、不可解な描き方をしています。それは意図的に計算されたもので、例えば遠近法を無視することで、鑑賞者の視線がバーメイドの空虚な表情(パリ社会の虚構・虚像を示すもの)に集まるように工夫されているのです。
ロンドンのコートールド・ギャラリー所蔵
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温室にて エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの晩年の肖像画の代表作(1879年頃)です。
舞台は、パリのアムステルダム通りの温室で、マネは1879年頃の9ヵ月間、アトリエとして使用していた場所です。そして、本作は晩年のマネ作品に見られる特徴が良く示されている作品と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
一見すると、社会的にある程度の地位にある、ファッショナブルで魅力的なカップルの二重肖像画が目に入ります。彼らはマネの友人で、服飾店を経営するギユメ夫妻です。彼らは互いに手を近づけ、親密さがうかがえます。
しかし、肖像画の焦点は女性の方にあり、女性の方がより目立つ位置に配置され、色鮮やかな衣装を身にまとっています。夫のジュールがベンチの後ろで黒っぽい服を着て身をかがめているという物理的な分離、鑑賞者との関わりの欠如、抽象的な視線は、離人感を生み出しています。
また線の相互作用が作品を形作っています。女性は直立した姿勢でベンチの垂直なスラットと呼応し、男性は前傾しながらもその垂直を崩しません。ベンチは右側に続いており、水平性と前景と背景の分離を強化しています。女性のドレスの斜めのプリーツが、直線的な構図を和らげています。
ベルリン旧国立美術館所蔵
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胸をはだけたブロンドの娘 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1878年頃)です。マネの代表作「オランピア」以降に制作された7点の裸婦作品の中の1点で、胸部がはだけた女性の半身像を画題に描かれた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央でケシの花飾りの付いた麦藁帽子を被る娘は、空虚な表情を浮かべながらぼんやりと左側を向いています。その顔には緊張の色はもとより、他のマネの作品に見られる女性の生命感が全く感じられません。これは頭痛や脚の痺れなど体調に変化の兆しが見え始めたマネが、己の行く末を想う複雑な心境が投影されていたと言われます。
一方、画面下部の半分以上を占める娘の豊潤な姿態や、はだけた胸部の柔らかな曲線には女性としての官能性やマネの絵画に対する挑戦を見出すことができます。
更に本作は油彩を用いながらも、別の素材として松精油を混合させていることが知られており、その薄塗り効果はあたかも水彩のような表情を生み出しています。この他素材を混合する描写手法は晩年のマネの作品の特徴で、その中でも本作は秀逸な出来栄えを示しています。
他にも若い娘の黄色味を帯びた肌色や麦藁帽子に装飾される赤々としたケシの花と、背景に使用されるややくすみを帯びた緑色との色彩の対比などにマネの創意と才能を感じることができます。
オルセー美術館所蔵
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船遊び エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1874年頃)です。セーヌ川で舟遊びを楽しむ男女を描いており、水平線を描かず場面と対象のみを切り取った、日本の版画的な構図と構成が特徴の作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
舟遊びを楽しむ男女と船は柔らかな陽光を浴び、輝きを帯びながら画面内へ大胆に配され、日本の版画のようにフレームで切り取られています。女性が身に着ける衣服の縦縞模様の荒々しい筆触は、光の表現において印象的な効果を生み出しています。また青々としたセーヌ川水面は、反射する陽光によって多様な色彩的表情を見せているほか、繊細で鮮やかな色彩描写は自然と観る者の視線を傾けさせる事に成功しています。
ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵
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アルジャントゥイユ エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1874年頃)です。本作は、アトリエでの裸婦画から自然の中での開放的な絵画へと、マネの作風を大きく変える礎となった作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作に描かれるのは、パリの北西、セーヌ川右岸にあるイル=ド=フランス地域圏ヴァル=ドワーズ県の街で、舟遊び場として有名なセーヌ河沿いの「アルジャントゥイユ」に集う男女の姿です。
青とグレーのストライプのドレスを着た女性が描かれています。首周りにはクラシックな色が施され、ドレスの裾には余分なフリルが付いています。女性のドレスには、細部にブラウンの色調が加えられています。男性は、女性をじっと見つめ、その女性は鑑賞者を見つめています。男性は足を組んで座り、女性にボート遊びを誘っています。
マネは、女性が縦縞、男性が横縞の服で描き、二人の服装を戦略的に引き立てています。このような質感の変化は、絵に深みを与えると同時に、二人の間につながりをもたらします。背景には深い青色の水が流れ、陸地には小さな村があります。
ベルギーのトゥルネー美術館所蔵
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オペラ座の仮面舞踏会 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1873年頃)です。マネはしばしば大都市パリに生きる人々と彼らの生活を聖書や神話など正統的な主題への皮肉を交え描きました。オペラ座の仮面舞踏会もそうした作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
舞台は大広間ではなく回廊です。そこは売春や不貞の恋を求めて男女たちが集まった場所として知られていました。本作はそこに集った燕尾服を着た男性と、多様な格好をした女性たちが恋の駆け引きをしている様子を描いています。そうした同時代の人たちを強調するのが、画面上部に見られる女性の足のみの描写です。19 世紀、女性の足は男性の性的欲望を掻き立てるものと認識されていました。
一方、本作のような風俗的主題を扱った作品の中にもマネの鋭い現実への洞察や、聖書や神話など正統的な主題への皮肉が示されています。例えば「オルガス伯爵の埋葬」での聖人や教会を支えた有力者たちの集団は、当時のパリの現代化を支えた上流階級の人々と仮装した娼婦たちの姿に変え描かれています。また絵画としての色彩構成も黒色の衣服に身を包む男たちが画面の大部分を占める本作の中にアクセント的な差し色として、娼婦らや人形の格好をした男や水平に描かれる2階部分の床や垂直に描かれる2本の大理石の柱の白色が用いられています。
ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵
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鉄道 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1873年頃)です。マネは1874年のサロンへ4点出品しています。その内の2点が入選、本作はその一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作の舞台は、パリのサン=ラザール駅です。線路脇の建物の庭から駅構内の方を眺める構図で、背景に線路の向こう側の建物やヨーロッパ橋の一部が見えています。鉄道は、近代都市パリを象徴する新しいテーマでした。しかし、通過する汽車の存在は、白煙で暗示されるにすぎず、主人公として描かれているのは、鉄柵の手間の1組の母子です。
若い母親は、画題である鉄道とは無関係な読書をしており、その合間に目を上げてこちらを見たところです。膝の上では子犬が眠っています。この女性のモデルは、「草上の昼食」や「オランピア」でもモデルを務めたヴィクトリーヌ・ムーランです。少女は、母親が読書に熱中しているせいで、退屈して鉄柵の向こうのサン=ラザール駅構内を見ていることが読み取れます。母親の暖かそうな服装に比べ、娘は肩から両腕をさらしており、寒そうに感じられます。
マネの作品は、意味ありげなシチュエーションやモチーフでも知られていますが、ここでも少女の脇になぜか一房のぶどうが置かれています。昼下がりの日常的な光景に、駅や鉄道という近代化のシンボルを織り込み、そこに小さな謎をスパイスのように効かせた本作は、マネの真骨頂を示す一枚といえます。
ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵
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