エゼキエルの幻視 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1518年頃)です。
預言者エゼキエルが見たといわれるものを描いた作品です。ラファエッロがミケランジェロに敬意を表して描いたと言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
ゼキエルは幻影の中で、4つの生き物で形作られた玉座に座っている男が現れるのを見ています。これらの生き物は、牛の顔、鷲の顔、獅子の顔、そして人間の顔と、それぞれ異なる顔を持っています。この「出現」が預言者エゼキエルに語りかけ、エゼキエルは神が自分に語りかけていることに気付きます。
絵の中でエゼキエルは、絵の左下の光線の中にいる小さな人物として描かれています。教父、聖ヒエロニムスは、この4つの生き物を4人の福音書記者の象徴としました。人間はマタイ、ライオンはマルコ、牛はルカ、鷲はヨハネを象徴しています。
構成の容易さ、形の明瞭さ、そして人間の壮大さという新プラトン主義(※1)の理想を見事に表現している作品です。
※1:新プラトン主義とは、神の創造を模倣すること、より美しいものをリアルに描き出すことがイデア(完全なもの)の探求であるという考え。古代ギリシャの哲学者プラトンの考えで、人間は円や完全なもの、愛や善、美という概念を理解できるのは、イデア界というものをかつて天上界で見て知っているため、現世においてそれを想起でき模倣できるのだという考えから来ています。
イタリアのピッティ宮殿(フィレンツェ)所蔵。
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アレキサンドリアの聖カタリナ ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1507年頃)です。
アレキサンドリアの聖カタリナは、キリスト教の聖人で殉教者で、 正教会では聖大致命女エカテリナとして敬われ、ローマ・カトリックでは伝統的に『十四救難聖人』の一人とされています。聖カタリナは、数多くの画家に描かれていますが、その中でも特に評価が高いのが、本作です。
それでは具体的に観て行きましょう。
緑、赤、青、黄などの色をふんだんに使った衣装を身にまとっています。右手は胸元を覆い、左手はドレスの太もも付近を掴んでいます。背景は穏やかで、澄んだ青い空と川のようなものが見え、さらに背景には木々や山があります。聖カタリナ本人は上を向いており、その目は深く考え込んでいる人を表しています。また、彼女は殉教の象徴である車輪の破損を表す車輪にもたれかかっています。
この作品は、光、色、変化にあふれ、調和のとれた動きのある豊かな構成になっており、かつ、鑑賞者の感情を喚起することを避けた作風を継承しています。ラファエッロは、常に作品を通して感情を和らげることを意識し、絵画に感情的なトーンをもたらすような特徴を避けていました。
更に、ポーズ、色、デザイン、表情のバランスが絶妙にとれています。装飾的な要素と象徴的な要素の間で芸術的なバランスをとっています。また、車輪を絵の中に入れることで、空間的な奥行きの印象を強めています。聖カタリナの足元に置かれた車輪は、その位置によって聖カタリナを上昇させる効果があり、それは殉教者としての勝利を意味しています。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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ソリーの聖母 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの初期の作品(1504年頃)です。聖母マリアが持つ書物は伝統的に、旧約聖書外典の「ソロモンの知恵」とされ、幼児イエス・キリストが手にする書物は福音書と言われていいます。
この作品では聖母マリアが読んでいる本を幼子イエス・キリストが頭をもち上げて見ており、手にはゴシキヒワ(※1)をつかんでいます。それは聖母マリアの本に書かれている受難を予知するかのようです。
聖母マリアの青いマントや幼子の赤いローブは永遠を象徴し殉教を預言しています。
※1:ゴシキヒワは、スズメ目アトリ科に分類される鳥類の一種。磔刑時にイエス・キリストの頭に刺さった茨の冠の棘を抜いたため、その血を浴びて顔に赤い模様がついたとの伝説からキリスト教では受難の象徴とされています。
ベルリン美術館所蔵。
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コネスタビレの聖母 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの初期の作品(1504年頃)です。本作は、直径18cmの小さな円形の絵で、ラファエッロが聖母マリアを初めて円形で描いた作品です。
ラファエッロがそのスタイルを完成させる前の作品ですが、構図が素晴らしく、美しいリズム感があり、色彩の調和と気高さが感じられます。
それでは具体的に観て行きましょう。
聖母マリアが幼子イエス・キリストを抱きながら本を読んでいる情景を描いた作品です。聖母マリアは赤い衣を纏い、彼女の特徴である青いマントに包まれています。キリストを見下ろす母性的な眼差しは、どこか憂いを帯びています。それは、聖母マリアが読んでいる本に、息子の悲惨な死が予言されているからでしょう。背景には、雪をかぶった山と枯れた木がりますが、緑の草原が明るく、春の再生を予感させます。
1881年に本作は板からキャンバスへと移されました。その際、オリジナル案では、聖母マリアは本の代わりにザクロをじっと見つめていたということが発見されました。ザクロはキリストの受難を象徴しています。
本作はラファエッロがそのスタイルを完成させる前の作品ですが、構図が素晴らしく、美しいリズム感があり、色彩の調和と気高さが感じられます。
ロシアのエルミタージュ美術館所蔵。
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玉座の聖母子と五聖人 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの初期の作品(1504年頃)です。
ラファエッロがペルージャのフランシスコ会サンタントニオ修道院のために描いた祭壇画で、現在はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されており、アメリカに唯一あるラファエッロの祭壇画となっています。
それでは具体的に観て行きましょう。
聖ペテロ、カトリーヌ、ルーシー、聖パウロ、若き日の洗礼者ヨハネ、若き日のイエス・キリストが玉座に座っている様子を描いています。キリストは聖母マリアの膝の上に座っており、聖母マリアの足元にいる洗礼者ヨハネを祝福しているのが見えます。他の4人の聖人(聖ペテロ、聖カタリナ、聖ルチア、聖パウロ)も玉座の周りに集まり、感謝の祈りを行っています。
聖母マリアが玉座に座っているのは、カトリック教会の信者の間では、聖母マリアが世界の救世主であると考えられているためです。感謝の祈りが行われている四角い部分は、背景に丘や塔、植物などが描かれている世界を表し、半円の天蓋は、神と二人の天使がいる神の世界を表しています。
ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵。
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キリストの復活 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの初期の作品(1502年頃)です。本作は南半球で保管されている唯一のラファエッロ作品で、画面内の全要素が結び付き、不思議な躍動感を感じさせる作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
イエス・キリストを中心に外側に向かってバランスを考えた構図で描かれています。
4人の衛兵がキリストを囲み、2人の天使が両脇を固めています。キリストの衣の縁には金の刺繍が施されていて、このキリスト像が復活後のものであることを示すための工夫がされています。また、神性を強調するため、キリストは墓の上で空中に浮かんでいます。
風景はは空気遠近法を用いて描かれています。空気遠近法とは、遠くの背景を青く塗ることで、遠くに後退していることを表現する手法です。また、絵の左側にある道は、丘の間を縫うように細くなっていて、奥行きと距離を表現しています。
丘の麓の谷間には川が流れています。川はしばしば洗礼を意味し、洗礼によりキリストの死と復活に参加したことを信者に思い出させるために使われています。石棺の足元には、サタンを意味する蛇がいます。この蛇は、キリストの復活によってサタンが倒され、サタンの力がなくなったことを意味しているそうです。
このように、画面内の全要素が結び付き、不思議な躍動感を感じさせる作品です。
ブラジルのサンパウロ美術館所蔵。
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モンドの磔刑図 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの初期の作品(1502年頃)です。ラファエッロは、本作の中で、十字架に架けられたキリストの死の辛さや恐ろしさに焦点を当てるのではなく、聖変化の教義(※1)を表現しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作はカステッロ市のサン・ドメニコ教会の祭壇画で、十字架にかけられたイエス・キリストと6人の人物が描かれています。死にかけているにもかかわらず、キリストは穏やかな表情をしています。キリストの血を聖杯で受け止めている2人の天使。キリストから見て左側には、跪くマグダラのマリアとその後ろに佇む福音書記者ヨハネがいます。
反対側には聖母マリアが立ち、祭壇に祀られていた聖ヒエロニムスが跪いています。二人の天使は雲の上に立っているので、空にはエーテルのような雰囲気があり、この絵の上部にある月と太陽は、地と天を結びつけています。
この作品は、キリストが十字架の上で耐えた痛みや苦しみを無視し、足と手と脇腹の傷を除いて、汚れのない平和な状態で描かれています。ラファエッロは、十字架に架けられたキリストの死の辛さや恐ろしさに焦点を当てるのではなく、聖変化の教義(※1)を表現したのでした。芸術は、恐ろしいものを美しく見せることができることを実証した作品です。
※1:パンとぶどう酒がキリストの体や血に変化すること
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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自画像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年頃)です。
ポプラ材にテンペラを使い描いた自身の自画像で、現在、ラファエッロ自身のはっきりと確認できる自画像と言われています。
21~23歳の頃のラファエッロで、既に徒弟修業を終え画家として独り立ちし、各地の教会から祭壇画の制作を依頼され順調に大画家への道を歩み始めたころの自画像です。虚ろな眼付、物憂げな表情が気になりますが、容貌は端正に整った美しい青年で、芸術家らしい繊細な眼鼻立ちが印象的です。
イタリアのウフィツィ美術館所蔵。
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キリストの変容 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1519年頃)です。
本作はナルポンヌ大聖堂の祭壇に掲げるべく、ナルポンヌ司教の枢機卿ジュリオ・デ・メディチより依頼され制作された祭壇画で、ラファエッロのキャリアの集大成と言われる作品です。本作を描いた後、1520年にラファエッロは37歳の若さで亡くなりました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は、イエス・キリストが高い山で、預言者であるモーセとエリヤと語り合いながら白く光り輝く姿を弟子たちに示したと聖書に記された出来事を描いた作品です。主題に添った上部の場面と、下部の悪魔に取り憑かれた少年の治癒物語の場面の2場面構成となっています。下部の民衆がキリストを指し示すことによって、聖書の記された場面を一枚の画面に結び付けています。
弟子を率いてガリヤラのタボール山に登り、キリストが丘の上に立ったとき、キリストの身体が輝きを発し上空に浮かび、両脇からモーセとエリヤが現れ、天から「これは我が子(神の子)なり」と告げられた。新約聖書に記されるその劇的な一場面を、ラファエッロは鮮やかな色彩と巧みな構図で描きました。
そしてその下では己が神であることを示したキリストを目の当たりにし、地上にひれ伏す弟子(聖ペテロ、聖ヤコブ、聖ヨハネの三人)が描かれています。
バチカン美術館所蔵。
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