カウパーの聖母子 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年頃)です。ごく普通のイタリアの田舎にいる聖母マリアと幼児イエス・キリストを描いた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
聖母マリアは、鮮やかな赤い服を着て、木製のベンチにゆったりと腰掛けています。聖母マリアはブロンドの髪をしており、適度な清潔感があります。膝の上には暗い色のドレープがあり、聖母マリアの右手がその布にそっと触れています。ごく薄手の透き通るリボンが、聖母マリアの頭の後ろから服の上に渡って優雅に流れているようです。頭には、かすかに輝く金色の光輪が神秘的に描かれています。
聖母マリアは、左手で幼児キリストを抱き、キリストは、片方の腕を聖母マリアの背中に回し、もう片方は聖母マリアの首あたりに置いて抱きついています。キリストは、ためらいがちな笑みを浮かべながら後ろを振り返っています。
2人の後ろには、美しく澄み切った明るい昼間の光景が広がっています。遠くでは、2つの人影が、水面がきらめく池に向かってのんびり歩き、緑に囲まれた景色を楽しんでいるように見えます。大きくとても印象的な建物が、長い道の先に建っており、アーチ型の天井やその他の付属物が、宗教的な神々しさと優雅さを醸し出しています。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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聖ゲオルギウスと竜 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1506年頃)です。キリスト教の聖人である聖ゲオルギオスの竜殺しの伝説を描いたもので、聖ゲオルギオスは人間の犠牲を要求した竜を飼いならして殺害し、次の生贄として選ばれた王女を救出したと伝えられています。
また本作は、ラファエッロが苦労して身に付けたルネサンスの理想やテーマが現れている作品で、騎士道精神とキリスト教を融合させた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
聖ゲオルギウスが座っている馬は、自然主義的な筋骨格を見事に表現しています。特に脚と首の下の部分は、動物の皮膚と同様に筋肉の息遣いが感じられます。更に、象徴的な物語は典型的なキリスト教的なものです。
この作品の背景は、ペルーギネス的な色調と光、澄んだ青空に支配されており、聖ゲオルギウス自身は目の覚めるような赤い鞍に座っています。これも、鮮やかで印象的な色を使うという、ラファエッロの反ダ・ヴィンチ的な傾向の表れです。その結果、聖ゲオルギウスは古代ローマの馬の彫像に似ています。
この絵は、排他的というよりも規範的な印象を与えますが、竜のイラストが印象的で目を引きます。竜からは、はっきりとした憎しみと攻撃性が見て取れます。
ワシントンDCのナショナル・ギャラリー所蔵。
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ビンド・アルトヴィティの肖像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1515年頃)です。
ラファエッロの後期ローマ時代は、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受け、様々なスタイルや構造を試していました。本作のシンプルで比較的女性的な立ち位置と圧倒的な光と影の対比も、その試みの一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
光と影の強いコントラストに加え、男性の肖像であるのに、優美で、まるで女性のようなモチーフの姿は、これまでのラファエッロ作品からはかけ離れています。そして、被写体を回転させることで、うっとりするような視線を意図的に作り出しています。
目は、「愛情の補佐役」として知られています。頬を紅潮させ、胸に当てた手には指輪をし、肩から伸びたローブからは、繊細なねじりで撫でられた髪の毛が露出しています。その鮮やかな陰影は、彼の愛情の高潔さと無垢さを強調しています。ラファエッロはこの時期、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受け、様々なスタイルや構造を試していたのでした。
ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー所蔵。
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パルナッソス ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1511年頃)です。
本作はバチカン宮殿の「ラファエッロの間」に展示されている作品です。「ラファエッロの間」は、哲学、宗教、詩作、法律の4つの部屋で構成されています。本作品は詩作に展示されています。
それでは具体的に観て行きましょう。
「パルナッソス」は、音楽や叙事詩の聖地とされるギリシアの山で、音楽や弓、医術、予言を司るとされる太陽神アポロが祭られています。ラファエッロがパルナッソス山を絵の舞台に選んだのは、デルフィがその斜面にあったからだと言われています。
デルフィは、詩や音楽などの芸術を司るアポロン神の聖なる神殿があった場所で、太陽神アポロンが中心的存在でした。本作では、木の下で休んでいるアポロンがリラ・ダ・ブラッチョを演奏し、その周りをさまざまな著名な詩人や9人の女神たちが取り囲んでいます。
当時の絵画は主に卵テンペラが使われていましたが、ラファエッロの絵を見ると、影の深さや色の豊かさを表現するために、先進的に油絵の具を使ったと考えられています。
バチカン美術館所蔵。
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神殿から放逐されるヘリオドロス ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1511年頃)で、マカバイ記の物語を題材にした幅750cmのフレスコ画です。本作が展示されている部屋は、本作の名前にちなんで「ヘリオドロスの間」と言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
シリア王からエルサレム神殿の財宝を奪うために派遣されたヘリオドロスが、天の騎士に追われて神殿から追い出されている様子が描かれています。ヘリオドロスはフレスコ画の右下の部分で地面に倒れています。彼の頭上には、司祭の祈りに応えて神殿を守るためにやっきた騎手と二人の天使が描かれています。絵の左側には、2人の衛兵に椅子で運ばれた教皇ユリウス2世が描かれています。
注目すべき点は、絵の焦点を横にずらし中央に空間を作っています。そして、身廊が光で照らされ、天使の影のひとつが床の石のひとつにほぼ完全な円を描いています。このようなダイナミックな表現手法は、ラファエッロのその後のフレスコ画にも受け継がれています。
バチカン美術館所蔵。
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聖体の論議 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1510年頃)です。
バチカン宮殿内のラファエッロの間に飾られているフレスコ画(※1)です。
当時のラファエッロの間は、署名の間と呼ばれ、ローマ教皇の書斎で、教皇庁の法廷(最高裁判所)ともなっていました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は、聖変化(※2)を議論する神学者たちを、天界と地上の両方に及ぶ一場面の中で描いています。
画面の上方では、光背に囲まれたイエス・キリストが、その左右には祝福された聖母マリアと洗礼者ヨハネを従えるデイシスの配置で描かれています。さらにその最上部には父なる神が天使たちと共に描かれています。天上界には、このほかにも様々な聖書の登場人物が描き込まれており、左端に座り鍵を握っているペトロ、その隣で裸の胸をむき出しにしているアダム、右端に座り本と剣を持つパウロ、右側で光の角を帯びて十戒が刻まれた石板を持つモーセなどが両側に描かれています。キリストの足元には白い鳩の姿に表象された聖霊が配され、その両脇にはプットたちが四つの福音書を開いて掲げています。
地上では、祭壇に聖体顕示台が置かれおり、その祭壇の両側に、聖変化を議論する神学者たちが描かれています。祭壇の左側に腰掛ける教皇グレゴリウス1世とヒエロニムス、そして、祭壇の右側に腰掛けるアウグスティヌスとアンブロジウスといった4人の古代の教会博士がいます。他には、教皇ユリウス2世、教皇シクストゥス4世、サヴォナローラ、ダンテ・アリギエーリもいます。本作品の下の方には金色の服を着た教皇シクストゥス4世、そして、そのすぐ右隣りにいるのがダンテで、赤い服を身にまとい、月桂冠かぶっています。左下隅で、本を片手に手すりに寄りかかっている禿頭の人物は、ラファエッロの恩師でルネサンス期の建築家ブラマンテです。
※1:フレスコ画とは、壁に新鮮で生乾きの状態の漆喰を塗り、それが乾かない間に水で溶いた天然の顔料で描く手法。
※2:聖変化とは、カトリック教会のミサや正教会の聖体礼儀において、パンとぶどう酒がイエス・キリストの体(聖体・聖体血)に変化すること。
バチカン美術館所蔵。
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一角獣を抱く貴婦人 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1506年頃)です。
一角獣は中世において純潔と貞操の象徴で、一角獣は処女のみが捕まえることができるとされていました。さらに1959年に行われた修復により、一角獣よりも以前には犬が描かれていたことが判明しました。犬もまた純潔と貞節の象徴で、本作はラファエッロが結婚を控えたこの花嫁と未来の夫への結婚祝いとして描き、贈ったものと言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
描かれているのは、ブロンドの髪に鋭い表情の若い女性で、背後の風景に向かって開かれたロッジアの前に座っています。彼女の腕の中には、頭に角の生えた小さな生き物、ユニコーンがいます。本作は非常に細密でリアルで、被写体の視線の強さを強調するような光の質を持ち、作品に説得力のある即時性を与えています。媒体は、パネルに油絵具で描かれており、テンペラでは得られない豊かな色彩とディテールが表現されています。
この頃のラファエッロは、同時代のレオナルド・ダ・ヴィンチに強い影響を受け、より複雑でダイナミックな表現を模索していました。特に本作は、ダ・ヴィンチが描いた「モナリザ」に影響を受けていると言われています。
ローマのボルゲーゼ美術館所蔵。
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トンマーゾ・インギラーミ伯爵の肖像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1516年頃)です。
本作は2部制作されており、一つはアメリカのイザベラ・スチュワート・ガードナー博物館、もう一つはイタリアのビッティ宮殿に所蔵されています。本作はアメリカに最初に持ち込まれたラファエッロ作品としても有名です。
それでは具体的に観て行きましょう。
インギラーミ伯爵は物思いにふけり、右斜め上を見つめています。また机に向かってペンを持ち、赤い革表紙の本からクワイヤー(紙葉)と呼ばれる紙の束に文章を書き写しています。印刷機が登場した後も、インギラーミ伯爵は教皇ユリウス2世のような富裕層のために、貴重なテキストを手書きでコピーした豪華な版を作り続けました。
赤い帽子とローブを身につけていることから、インギラーミ伯爵はサン・ピエトロ大聖堂の責任者の一人であることがわかります。
本作は、インギラーミ伯爵の昇進と、当時バチカン宮殿の教皇の居室のフレスコ画を制作していたラファエッロと知り合ったことを記念して作られたものと言われています。
イザベラスチュアートガードナー美術館、ピッティ宮殿所蔵。
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友人のいる自画像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1520年頃)です。
本作は真の友情の典型である相互尊重の姿を描いた作品です。ラファエッロの前に描かれている男性は不明ですが、剣の柄を持っていることから、ラファエッロの剣術の師匠ではないかと言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
ラファエッロが男性の後ろに立ち、肩に親しげに手を置き、深刻な表情で画面の外を見ています。男性の仕草は、見物人に向けられたものではなく、ラファエッロに向けられたもので、まるで鏡の中の自分を見せられているかのようです。座っている男性がラファエッロを振り返る視線の柔らかな流動性と、左手を相手の肩に置く柔らかな弛緩からは、二人の男性の友情が感じられます。
二人の衣服の種類や色は似ていますが、姿勢や表情、動作は大きく異なります。更に位置や高さが異なることで、視線が偏り、非対称性が強調されています。ラファエッロだけが鑑賞者の方を向いていて、座っている人物は見えない鑑賞者との間を取り持っています。
両者の仕草からは、友情のような親密さや寛容さ、友情が感じられますが、視覚的な対称性がないことで両者の違いを強調し周囲の状況を指し示すことで、ラファエッロは真の友情の典型である相互尊重の姿を描いたのでした。
パリのルーブル美術館所蔵。
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