牧場の聖母 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1506年)です。
本作は、ラファエッロが幼子イエスと子供時代の洗礼者ヨハネが出会うという寓話的場面を描いた一連の作品の最初のものです。
それでは具体的に観て行きましょう。
幼子イエスと洗礼者ヨハネと共にいる聖母マリアが描かれています。穏やかな緑の草原にいる三人の人物はそれぞれ手、視線により繋がっています。幼子たちを見つめる聖母マリアの赤と青の衣装は、聖母マリアの典型的な服装でありながらも、画面に聖母らしい清潔なインパクトを与えています。
幼子のヨハネが持つ小さな十字を触ろうとふらつきながら前に乗り出す幼子キリストを聖母は支えています。洗礼者ヨハネは、片膝を地に付け、幼子キリストが握る十字架を支えており、洗礼者ヨハネの質素な衣に身を包み十字架を手にしている姿は、ルネサンス以降に描かれた聖母子の定番の構図です。
ウィーン美術史美術館所蔵。
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アンシデイの聖母 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年)です。
本作はラファエッロ・サンツィオがフィレンツェ滞在時代に描いたもので、ロンドンのナショナル・ギャラリーで、最も人気の高い作品のひとつです。
それでは具体的に観て行きましょう。
ウンブリア画派(※1)の影響を受け描かれた作品です。
ポプラ板に油彩で描かれた板絵で、幼児キリストを抱き木製の玉座に座する聖母マリアが描かれています。マリアから見て右側には洗礼者聖ヨハネが、左側には書物に目を通すバーリの聖ニコラウスがそれぞれ配されています。
聖母マリアはキリスト教徒が日常の祈りの際に模範とすべき文章を集めた書物「祈祷書」を熱心に読んでいる姿で描かれ、信仰の重要さを表現した祭壇画として評価されてきました。玉座の上には「万歳、キリストの御母」と書かれています。
※1:ウンブリア画派:ルネサンス期,中部イタリアのウンブリア地方で活動した画家たちの総称。早くからシエナ派やフィレンツェ派と交流し,古典的で荘重な画風のなかに甘美な幻想を維持しているのが特色。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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三美神 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年)です。
本作はラファエッロがピエトロ・ペルジーノから教えを受けていた頃に描いたもので、ラファエッロが裸の女性の正面と背面を描いた最初の作品と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作はギリシア神話とローマ神話に登場する美と優雅を象徴する三人の女神を描いています。左側に乙女(純潔)を表すように下腹部に布を巻いている女性、右側に成年女性(古代ギリシアの悦楽の女神ウォルプタース)を配置することによって、3人の人物は、女性の成長段階を表現していると言われます。
本作の三美神の調和に溢れた均整的な古典的表現は、ルネサンスを代表する三美神の表現として有名です。
フランスのコンデ美術館所蔵。
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聖母の結婚 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖と言われるイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1504年)です。ラファエッロにレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロを加えた3人は盛期ルネサンスの三大巨匠と言われます。本作はラファエッロ21歳の時の作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
主題は、聖母マリアが14歳の時、神殿の司祭長のもとへ天使が現れ「国中の独身者に一本、杖を持たせて集めよ。そして杖の先に花の咲いた者を(聖母マリアの)夫として選べ」と聖告を受け、その聖告に従い国中の独身者を集める中、大工ヨセフの手にする杖の先に花が咲き、聖母マリアの夫として選定された後、結婚の儀式をおこなう場面を描いたものです。
画面中央より左側に聖母マリアと5人の処女たちが配され、右側には夫ヨセフと選定に漏れた多くの独身者たちが描かれています。そして中央では司祭長が聖母マリアと夫ヨセフの手を取り婚姻の印となる指輪を聖母マリアの手の先へ近づけています。
本作での空間把握と自然な描写から、若きラファエッロが既に師ペルジーノを超えるだけの力量を有していたことが判ります。そしてこれらが相乗的に作用し合い、静粛さと荘厳さが混在した聖性の高い結婚場面の表現となっています。
この表現こそ、ラファエッロ宗教画の真髄であり、観る者を魅了します。
ブレラ美術館(ミラノ)所蔵。
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市場にて ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1892年)です。
ゴーギャンのエジプト好きは、よく知られていますが、本作はエジプトの壁画の写真から着想を得て製作されました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は、タヒチの首都パペーテの市場の様子を描いています。しかし、果物や魚などを売る様子は描かれていません。描かれているのは、派手に着飾った女たちです。女たちは着飾って媚びを売るような表情を見せ、自分の体をフランス人に売り込んでいるです。ベンチに横に並んだ女たちの様子が、いかにも売り物の陳列のように見えます。
本作はエジプトの壁画の写真から着想を得て製作したと言われています。ポーズや横向きの体、顔つきなどをそのままタヒチの女性に当てはめ、様式化された単純なリズムを作り出しています。
スイスのバーゼル美術館所蔵。
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ヴォジラールの野菜栽培 ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの初期の作品(1879年)です。
本作は1880年の第5回印象派展に出展した8作品の中の1作品で、ゴーギャンの印象派画家としてのデビュー作となった作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
パリ郊外のヴォジラールの建造物と周辺の田園地帯を描いています。当時ゴーギャンは家族と共にこの地域に住んでいました。ゴーギャンは、前景に煙突と屋根を描くことによって、自分自身の存在をほのめかしています。前景の建物はゴーギャンの家と言われています。
郊外の田園地帯を題材にするところや短く対角線上に描く筆法から、当時のゴーギャンがカミーユ・ピサロの影響を受けていたことが判ります。また、継ぎはぎのような描き方はポール・セザンヌの影響が見てとれます。
本作はゴーギャンがやり手の投資家だった時代のもので、当時は画業はゴーギャンにとって副業にすぎませんでした。
アメリカのスミス大学美術館所蔵。
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セーヌ川にかかるグルネル橋の風景 ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの初期の作品(1875年)です。
ゴーギャンが木のパネルに描いた数少ない作品のひとつです。ゴーギャンは当時流行っていたマホガニーの木のオフホワイト地のパネルを使用して本作を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
セーヌ川河畔にかかるグルネル橋と工業ビルの様子を描いた作品です。
きびきびとしたタッチでぼかし画法が用いられています。前景の船の縁の部分ではパネル自体に直接塗り込んで色を混ぜています。また薄め液が反射の効果を出しています。
工業ビルのあたりはペンと定規を使って遠近法の下書きをしています。これは赤外線のスキャンの結果で明らかになりました。描写はとても繊細で半透明の下書きがされており、部分的にきめの荒いタッチで赤みがかった黄土色と緑がかった茶色で仕上げられています。
ドイツのヴァルラフ・リヒャルツ美術館(ケルン)所蔵。
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アリイ・マタモエ王の死 ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1892年)です。
ゴーギャンが第一次タヒチ滞在中に創作された作品です。描かれている儀式の光景は、タヒチの葬儀様式とは異なっており、ゴーギャンがタヒチに到着した直後に起きたポマレ5世の他界からインスピレーションを受けたと言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
クッションに男性の切断された頭部が描かれており、その周りには会葬者達が集まっています。切断された頭部は低い机に載せられています。頭部を載せる容器には少しだけ血が付いており、何が起きたのかについて観客にヒントを与えています。部屋のインテリアにはティキ(※1)のような形と幾何学模様で溢れています。
キャンバス生地には、ゴーギャンが想像している素朴でエキゾチックなタヒチの宮殿を表現するため、ラフで黄麻布のような布を使用しています。また、ゴーギャンは紫色から鮮明なピンクまで様々な色彩を使い、タヒチのトロピカルな光景を作品にて再現しています。
ゴーギャンは東方と西方の影響を自由に混ぜて作品を描いたのでした。
※1:テッキ:ポリネシアンの島々やハワイで見られる偶像礼拝の風習で崇められる偶像です。
カリフォルニア州のJ・ポール・ゲティ美術館所蔵。
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果物籠とレモンのある静物 ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1880年)です。
本作はクロード・モネ、ピサロ、ルノワールを含む先輩たちの影響を受け、印象派のスタンダート的な作品ですが、後にゴーギャンが描く絵の特徴も垣間見れる作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
テーブルの上の果物籠とレモンを描いた作品です。右奥に描かれている動物は、白鳥なのか、ガチョウなのか、それとも幽霊なのか。そして何故、長い首を180度回転させて、頭を自分の周りに持ってきてループを形成しているのだろうか?
この神秘的な動物は、静物画に思考を求めるある質を与えています。
また、テーブルクロスの特殊な描き方は、ポール・セザンヌの影響を強く受け、輪郭と影で特殊な効果を出す描き方をしています。しかし、白い布の位置と構造は、セザンヌのものとは異なり、意識的に外部の現実から目を逸らすこと、色の輝き、抽象的な傾向があります。これは、後にゴーギャンが南洋で描いた絵の特徴でもあり、あらゆる状況下での楽園を伝えようとしているが、避けられない憂鬱さが漂っています。
白鳥のようなガチョウは、そのことを予兆しているのかもしれません。
スイスのラングマット美術館(バーデン)所蔵。
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