友人のいる自画像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖のイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1520年頃)です。
本作は真の友情の典型である相互尊重の姿を描いた作品です。ラファエッロの前に描かれている男性は不明ですが、剣の柄を持っていることから、ラファエッロの剣術の師匠ではないかと言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
ラファエッロが男性の後ろに立ち、肩に親しげに手を置き、深刻な表情で画面の外を見ています。男性の仕草は、見物人に向けられたものではなく、ラファエッロに向けられたもので、まるで鏡の中の自分を見せられているかのようです。座っている男性がラファエッロを振り返る視線の柔らかな流動性と、左手を相手の肩に置く柔らかな弛緩からは、二人の男性の友情が感じられます。
二人の衣服の種類や色は似ていますが、姿勢や表情、動作は大きく異なります。更に位置や高さが異なることで、視線が偏り、非対称性が強調されています。ラファエッロだけが鑑賞者の方を向いていて、座っている人物は見えない鑑賞者との間を取り持っています。
両者の仕草からは、友情のような親密さや寛容さ、友情が感じられますが、視覚的な対称性がないことで両者の違いを強調し周囲の状況を指し示すことで、ラファエッロは真の友情の典型である相互尊重の姿を描いたのでした。
パリのルーブル美術館所蔵。
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バルダッサッレ・カスティリオーネの肖像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1515年頃)です。
外交官で人文主義者のカスティリオーネとラファエッロは親密な関係にあり、ラファエッロは、カスティリオーネの理念や思想を良く理解していました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作はカスティリオーネが持っていた理念や思想を、理想像として肖像画の中に描き込んだ作品です。黒、灰色、白の各色の間に見られる、この衣服のもつ控えめな調和は、明るく暖かみのある淡い灰褐色の背景へと続いており、その背景を満たすぼんやりとした光の中には、右手にモデルの影がかすかに滲んでいます。
絵の全体は細い黒の帯によって縁取られていますが、その帯は、わざと手の部分を切り取り、観る者の注意を顔と、その青い力のこもった眼差しへと引きつけることで、作品の境界を画しています。
右下隅には肘掛け椅子の一部が簡単に描かれ、そこに座ったカスティリオーネの上半身は斜め左前から捉えられており、その姿勢や、観る者の方へ向けられたその視線、前景で組み合わされた両手、柔らかな光を帯びた肖像の外観は、「モナ・リザ」に対する賛辞であると言われています。
ラファエッロは、レオナルドがフランスに発つ前にローマに滞在していた時期に「モナ・リザ」を見ていたものと思われますが、これら二つの作品における雰囲気、二つの肖像画における二人の画家の願望は、根本的に異なっています。この等身大の肖像画の見事な近代性を作り出しているのは、何にも増して、その姿態のもつ自然さ、瞬間性、直截さ、自由さであり、そしてその生き生きとした表情なのです。
ルーブル美術館所蔵。
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美しき女庭師 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1507年)です。
本作はルーブル美術館では「聖母子と幼き洗礼者聖ヨハネ」というタイトルで展示されている作品です。ラファエッロは、母性を画面中に表現し、多くの人々から支持を得ました。本作はその中でも最も典型的な作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
中央に描かれた、聖母マリアが身につけているドレスの赤色は、深い愛もしくは犠牲の血の色を表しており、マントの青色は、天上の真実を表しています。左下の幼児はイエス・キリストで、母親マリアの膝の上から旧約聖書を取ろうとしています。
右下でひざまずいている幼児は洗礼者ヨハネであり、ラクダの毛の衣を身につけており、葦でつくられた十字架の杖を手にしています。洗礼者ヨハネは、イエスに従うようなしぐさを見せている。3人の頭上には、金の光輪が描かれており、聖母マリアを頂点として安定した三角形の構図で描かれています。
ルーブル美術館所蔵。
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バッカス レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
一人の男性がヒョウの毛皮を持ち、牧歌的な風景の中に座っている様子を描いています。この男性は洗礼者ヨハネです。ヨハネは右手で左を差し、左手で杖を抱えながら大地を指さしています。
従来、洗礼者ヨハネは、年老いた預言者風には描かれて来ましたが、ダ・ヴィンチはヨハネを、美しく、若々しく、中性的に描いたのでした。
この作品は従来「洗礼者ヨハネ」と呼ばれていましたが、「バッカス」と呼ばれるようになりました。ヒョウの毛皮の衣は、古代の酒神バッカスの目印と言われています。
ルーブル美術館所蔵。
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アンギアーリの戦いとカスチーナの戦い レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ

「アンギアーリの戦い」は、15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
フィレンツェのヴェッキオ宮殿の大広間に描かれた壁画です。軍旗を激しく奪い合う兵士達や軍馬の衝突が描かれ、ダ・ヴィンチ最大の大作と言われています。
ダ・ヴィンチは、本作を油絵で描こうとしました。ロウを混ぜた厚い下塗りなど試行錯誤をしましたが、表面の絵具が流れ落ち、結局、壁画を途中で諦めることになりました。
現在は、ヴァザーリ作のフレスコ画「ヴァルディキアーナでのマルチャーノの戦い」で上書きされてしまったため、ヴェッキオ宮殿で見る事はできません。

        ヴェッキオ宮殿の大広間

しかし、ピーテル・パウル・ルーベンスにより模写されたもの(上記画像)がルーブル美術館に展示されています。
一方、ダ・ヴィンチがヴェッキオ宮殿で「アンギアーリの戦い」を描いていた頃、反対側の壁では、ミケランジェロが「カスチーナの戦い」を描いていました。

ミケランジェロの「カスチーナの戦い」

しかし、こちらも「カスチーナの戦い」の下描きが終わった頃、ミケランジェロは教皇の墓を手がけるためにユリウス2世にローマへ呼び戻され、未完のままとなりました。
フィレンツェのヴェッキオ宮殿所蔵。
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ラ・ベル・フェロニエール レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
ダ・ヴィンチの作品で、一人の女性を描いた肖像画はわずかに4作品しか現存せず、本作はその中のひとつで「ミラノの貴婦人の肖像」とも呼ばれています。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作はミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァの愛妾ルクレツィア・クリヴェッリを描いた作品と言われています。
構図には、フランドル画家たちが始めた様式の影響が見られ、モデルの頭部と上半身だけ描き、両手は下部の手すりに隠れています。ダ・ヴィンチの特徴であるスマフート技法(※1)も見られます。
ルーブル美術館所蔵。
※1:スマフート技法:深み、ボリュームや形状の認識を造り出すため、色彩の透明な層を上塗りする絵画の技法。
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岩窟の聖母 レオナルド・ダ・ヴィンチ

16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
本作はダ・ヴィンチが創始した、スフマート(※1)という技法を使った作品の中でも完成度が高い作品のひとつと言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
聖母マリア、幼児キリスト、幼い洗礼者ヨハネ、天使の四人の人物像が描かれています。岩場を背景にした人物たちが三角形を構成しています。岩場の遠景には山並みと渓谷が描かれています。人物たちが構成する三角形の頂点に位置する聖母マリアは右手をヨハネの肩にまわし、左手をキリストの頭上に掲げています。跪いたヨハネはキリストを見つめながら、両手を合わせてキリストに祈りを捧げています。最前面に描かれたキリストは天使に背中を支えられ、ヨハネに向けて右手を掲げて祝福を与えています。
人物たちの重なり合う手や微妙に交差し合う視線は、綿密な組み立てられており、肌の起伏を弱めることなく輪郭を自然にぼかした光沢により、力強さを感じさせます。
人物たちの自然なしぐさや、鉱物ばかりが際立つ風景の存在感は、当時の祭壇画に見られる儀式ばった姿勢やだまし絵の建造物と比べ、革新的でした。
ルーブル美術館所蔵。
※1:スフマート:深み、ボリュームや形状の認識を造り出すため、色彩の透明な層を上塗りする絵画の技法。モナ・リザもスフマートを使った作品です。
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アルジェの女たち

19世紀のフランスのロマン主義(※1)を代表する画家、ウジェーヌ・ドラクロワの作品です。オリエンタリズム絵画の傑作と言われています。
ドラクロワは、古典主義において軽視されてきた、エキゾチスム・オリエンタリズム・神秘主義・夢などといった題材を扱いました。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面の中央に2名、左側に1名ハーレムの女らが座しています。その様子からはハーレム特有の気だるさと官能的な風俗性が滲み出ています。
彼女らが身に着ける豊かな色彩と異国的な衣服は、独特の情緒と異国的雰囲気を感じさせ、観る者を強く惹きつけます。
そして、本作で注目すべき点は、色彩の妙です。画面右上から差し込む北アフリカの強烈な陽光によって光と影が対比されています。ドラクロワはその陰影の中に多様な色彩を見出し、色彩による対比でそれを描写しています。
このような明度の差異に頼らない輝くような色彩は画期的で、ピカソを始めとした20世紀の画家らに多大な影響を与えました。
ルーブル美術館所蔵。
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ダンテの小舟

19世紀のフランスのロマン主義(※1)を代表する画家、ウジェーヌ・ドラクロワのデビュー作です。
ドラクロワは、古典主義において軽視されてきた、エキゾチスム・オリエンタリズム・神秘主義・夢などといった題材を扱いました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作品は、ダンテの「神曲 第8篇」にある物語を題材にしています。
一心不乱に舟に乗り込もうとあがく亡者達、漕ぎ手のプレアギュースの青い衣服が強風でうねっています。波立つ川に揺れる舟、後ろに見えるのは巨大な灼熱地獄と化した街。激しい狂気と絶望がこの絵の中にあります。
どこからともつかない光が亡者達のたくましい肉体を照らし、その明暗の効果が不気味さを一層強調しています。大胆な色使いも印象的です。ダンテの赤いカウルは、後方の大火を不安になるほど連想させ、プレアギュースの青い衣服と鮮やかに対比させています。
ルーブル美術館所蔵。
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※1:18世紀末から19世紀前半のヨーロッパ、及び、その後にヨーロッパの影響を受けた諸地域で起こった精神運動の一つ。それまでの理性偏重、合理主義などに対し感受性や主観に重きをおいた一連の運動です。恋愛賛美、民族意識の高揚、中世への憧憬といった特徴をもち、近代国民国家形成を促進しました。

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