かささぎ クロード・モネ

印象派を代表するフランスの画家、クロード・モネの作品(1869年頃)です。
本作品は、モネによって描かれた約140の雪景色の作品の一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
枝で作られた戸に止まっている一羽の黒いかささぎと、太陽の光の輝きを受けて青い影を創り出している新雪が描かれています。
白色を多用した雪の風景は、陽光と影の関係性やそれらが織り成す効果を狙って描かれています。力強い大ぶりな筆触によって描写される青を基調とした雪の複雑で繊細な色彩表現などに、モネの野心的な取り組みが現れています。
枝で作られた戸に止まる、かささぎの黒い羽は、白色や中間色が支配する本作の中で際立った存在感を示しており、絶妙なアクセントとして画面を引き締めています。
平行軸を強調する画面中央の雪の積もる柵、それが落す青紫色の影、空の雲、画面右手奥の戸も窓もない家、それらとは対称的な垂直軸を強調するかささぎの止まる戸、その奥の木々など簡素ながら絵画的奥行きの深い画面構成や、画面右側に配される木々が広げる枝の曲線的な描写も本作の大きな見所です。
オルセー美術館所蔵
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草上の昼食 クロード・モネ

印象派を代表するフランスの画家、クロード・モネの初期の代表作のひとつ(1865年頃)です。本作はエドゥアール・マネが描いた同名の「草上の昼食」(1863年)にインスピレーションを受けて描かれた作品で、「印象派の出発点であり、歴史的にも、またモネの個人史においても転換点となる重要な作品」と言われます。

               エドゥアール・マネの「草上の昼食」

それでは具体的に観て行きましょう。
本作の舞台は、パリから南東へ60キロメートルほど行ったところにあるシャイイ=アン=ビエールです。若い紳士と淑女たちが森の中で昼食を楽しんでいます。ローストチキンなどの贅沢な料理がワインとともに白いテーブルクロスの上に並べられています。
マネの「草上の昼食」は、ラファエロやティツィアーノを彷彿とさせる神話的(古典的)な主題を素地に、裸の女性と現代の服を着た男性がピクニックを楽しむ光景を描くことで、「現代性」を表現しようとしました。これに対して、モネの「草上の昼食」は、戸外の光の風景の中に、当時流行っていた余暇の過ごし方を描くことで、「現代性」を表現しようとしたのでした。
本作は完成後、モネの経済的な困窮から、家主に借金の担保として引き取られてしまいました。モネが本作を取り戻したときには、湿気によって画面が激しく傷んでいたため、左断片と中央断片を残し、後は捨ててしまったそうです。
オルセー美術館が所蔵しているのは、この残された左断片と中央断片です。

モネの「草上の昼食」には習作(※1)がプーシキン美術館(モスクワ)に残されており、作品全体像を垣間見ることができます。

草上の昼食(習作)プーシキン美術館(モスクワ)

※1:習作:下絵として描かれたもの。
オルセー美術館所蔵
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ガラス花瓶の中のカーネーションとクレマチス エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの静物画の代表作(1883年頃)です。
本作に描かれているのは、ガラスの花瓶に入れられたナデシコ科ナデシコ属の多年草で、母の日に贈られる花としても知られるカーネーションと、キンポウゲ科センニンソウ属の蔓性多年草で、観賞用として最も人気の高い蔓性植物のひとつでもあるクレマチスです。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面のほぼ中央に配されるやや背の高い台形型のガラス花瓶に、葉のついたままの大きく花開いたクレマチスがガラス口付近に活けられています。さらにその背後にはカーネーションが数本配され、日本美術の影響を感じさせる飾り気の無い簡素な配置です。
クレマチスとカーネーションの構成的なバランスや絶妙な配色、そして画面の中に躍動感をもたらしている左右のクレマチスの葉の展開は特に優れた出来栄えです。
花が活けられたガラス花瓶の中で、水を通り微妙に変化する光の描写や質感表現は、闊達で力強さを感じさせる筆触の効果も手伝い非常に表情豊かに描かれています。
最晩年期のマネは体調を著しく悪化させ大作を手がけることは困難な状況にあり、その為、室内に飾られていた花を描くことが多くなっていました。本作はそのような状況で描かれたマネの作品であり、「花」の画題にはマネの安堵や癒しを求める姿勢を窺い知ることができますが、逆に短命な花と自身の置かれた状況に対する心情を重ねたとも考えられています。
オルセー美術館所蔵
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胸をはだけたブロンドの娘 エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1878年頃)です。マネの代表作「オランピア」以降に制作された7点の裸婦作品の中の1点で、胸部がはだけた女性の半身像を画題に描かれた作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面中央でケシの花飾りの付いた麦藁帽子を被る娘は、空虚な表情を浮かべながらぼんやりと左側を向いています。その顔には緊張の色はもとより、他のマネの作品に見られる女性の生命感が全く感じられません。これは頭痛や脚の痺れなど体調に変化の兆しが見え始めたマネが、己の行く末を想う複雑な心境が投影されていたと言われます。
一方、画面下部の半分以上を占める娘の豊潤な姿態や、はだけた胸部の柔らかな曲線には女性としての官能性やマネの絵画に対する挑戦を見出すことができます。
更に本作は油彩を用いながらも、別の素材として松精油を混合させていることが知られており、その薄塗り効果はあたかも水彩のような表情を生み出しています。この他素材を混合する描写手法は晩年のマネの作品の特徴で、その中でも本作は秀逸な出来栄えを示しています。
他にも若い娘の黄色味を帯びた肌色や麦藁帽子に装飾される赤々としたケシの花と、背景に使用されるややくすみを帯びた緑色との色彩の対比などにマネの創意と才能を感じることができます。
オルセー美術館所蔵
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黒い帽子のベルト・モリゾ エドゥアール・マネ

印象派の創設に影響を与え近代美術の父とも呼ばれる、フランス画家エドゥアール・マネの作品(1872年頃)で、女流画家として有名なベルト・モリゾの肖像が描かれています。この作品完成後、ベルト・モリゾは、エドゥアール・マネの弟ウジェーヌ・マネと結婚しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
ベルト・モリゾが軽く笑みを浮かべているのが印象的です。ベルト・モリゾの衣服と帽子の黒色は画面の中で圧倒的な存在感を示していますが、この黒色と背景に用いられた灰色が画面の大部分を占めることによって、ベルト・モリゾの顔や頭髪に用いられた明瞭な茶色や肌色、すみれのブーケの控えめな青色が、より洗練された印象を観る者に与えます。
マネ独特の大ぶりな筆触や平面的な画面展開、抑えられた落ち着きのある色彩などが特徴の作品です。
オルセー美術館所蔵
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ブルターニュの農婦たち ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1894年)です。
タヒチからポンアヴェンへと帰ってきたゴーギャンは、再び以前創作のテーマとしていた農村の風景を描き出しました。しかし、ゴーギャンが再び描き出したブルターニュの景色は、ポリネシアの風習を踏まえたものでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作に登場する人物は皆、ゴーギャンが描いたタヒチの裸女たちを連想させるような頑丈なシルエットで描かれています。他にも大きな手と足や目立つ頬骨など、似たような描写が多数あります。立ち話をしている農婦たちの後ろには収穫時の小麦畑が広がっており、農夫が腰を下ろし畑作業に集中しています。
農婦たちの背後にある葉を除くすべての描写にはゴーギャンの特徴的な黒い線が描かれています。また、色彩の小刻みなタッチを重ねることで光を表現し、作品に描かれているもの、例えば農婦が身につけているエプロンなどに素材感を与えています。また単純化され、具体的に描かれていないものはお互いに混じり合い、空間の構造を作り出しています。更にゴーギャンは黄色、赤、緑や青などの鮮明な色を使い、風景を印象的にすることで、陳腐な雰囲気を一掃したのでした。
オルセー美術館所蔵。
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白い馬 ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1898年)です。
ゴーギャンの晩年作品で、友人の薬剤師の依頼により描かれたものです。白馬が水を飲んでいるが、緑色の馬体は非常にまがまがしく幻想的に見えます。
依頼主はこの白馬を見て受け取りを拒否したと言われます。この時期、ゴーギャンは自殺未遂をしており、絵画に精神面の不安定さが表れている作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
この白い馬の姿勢は、ギリシャのパルテノン神殿にあるレリーフに影響を受けたとされています。穏やかに水を飲んでいるように見える馬ですが、一白馬といわれる優雅で華奢なイメージではなく、骨太で野性味があふれています。色も自然の緑に囲まれて、馬自体も緑を帯び、人と共にいながらも飼いならされていない雰囲気が漂っています。穏やかな中にも人工物を寄せ付けない自然のエネルギーが感じられ、毅然とした美しさを放っています。
白い馬の奥には裸の人を乗せた赤茶色の馬と、右奥にも周りの色に溶けこんでいる人を乗せた茶色い馬がいます。その佇まいは自然の中にいて非現実的で、異次元に吸い込まれていくような幻想的な雰囲気を醸し出しています。
この作品を描いた時期、ゴーギャンは自殺未遂をしており、絵画にゴーギャンの精神面の不安定さが表れています。
オルセー美術館所蔵
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アレアレア ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1892年)です。
タヒチ滞在時に制作された作品で、現地の民話や古くから伝わる宗教行事に強いインスピレーションを受け、この作品を現実と夢が共存している象徴として描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
前景には2人の若いタヒチの娘が1本の樹木の傍らで腰を下ろしながらゆったりと過ごしており、その中のひとりは目を瞑りながら細い縦笛を奏でています。画面左下には一匹の神秘的な動物が赤茶色で描かれています。緑・黄色・赤の調和が素晴らしく、背景には、偶像を崇拝している女性たちが見えます。ゴーギャンは、マオリの小さなモチーフを大きなブッダに置き換え、巨大化させ、神聖な儀式のイメージを出しています。
輪郭線で囲んだ平坦な色面によって対象を構成するクロワゾニスム的手法を用いた対象の単純化と象徴化を、強烈な色彩による色面とその対比によって表現しており、タヒチ独特の異国的雰囲気が伝わってきます。これらの色彩表現や構成的展開が、当時のゴーギャンの特徴です。
本作は全体図として調和に満ちた構造となっており、哀愁的でもあり、神の庇護のもとに生き素晴らしい自然のただ中に生きる人間の姿が描かれています。これは太古のポリネシアの姿であり、ゴーギャンの理想郷でした。
オルセー美術館所蔵
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タヒチの女たち ポール・ゴーギャン

フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンの作品(1891年)です。
本作は、ゴーギャンがタヒチに理想郷を求めて渡航した年に制作されたもので、南洋の楽園、タヒチの光景が目の前にいっぱい展開されています。
ゴーギャンは、ここタヒチで、精神的に解放され、ゴーギャン独自の絵画表現を、体得したのでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
タヒチの二人の女性が、画面いっぱいに大きく描かれています。左側の眼を伏せて横すわりしている女性は、砂地に手をつき、太陽の日差しを浴びて物憂げな様子です。右側の女性は、こちらに身体を向け乾草のようなもので紐かなにかを編んでます。胡坐をかき視線を右外に向けています。
手前の砂地には、花飾りやマッチ箱のようなものがあり、渦巻きを描いた跡が見られます。遠くには、碧い海と浅瀬の緑の海、その間には白波が見えます。
色彩は、赤やピンク色、黄土色が支配的で、いかにも南洋の温暖な気候、のどかな情景を感じさせます。色調の細かい変化を抑えた平面的な筆使いで、画面内の遠近感と二人の女性の圧倒的な量感を表現しています。
寒色系の海が画面の奥行きを出しています。そして左右の女性の対照的な対比、身体の向きやしぐさ、表情、衣服の対比によって、さらに立体感を出しています。南洋の楽園、タヒチの光景が目の前にいっぱい展開された、印象的な作品です。
ゴーギャンは、ここタヒチで、精神的に解放され、ゴーギャン独自の絵画表現を、体得したのでした。
オルセー美術館所蔵
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