聖家族と幼児洗礼者ヨハネ ミケランジェロ・ブオナローティ

盛期ルネサンスの三大巨匠の一人、 ミケランジェロ・ブオナローティの作品(1506年頃)です。本作はフィレンツェ滞在時ドーニ家から依頼され制作された作品で、聖母マリアの夫聖ヨセフが威厳をもって描かれているのが特徴です。
それでは具体的に観て行きましょう。
主題は聖母マリアとキリストを中心に聖人を配する構図「聖家族」です。
我が子を見上げる聖母マリアの表情は愛情と崇敬の念に満ちているのと同時に、母としての力強さが、彫刻家であるミケランジェロならではの人体表現によって表現されています。
本作の聖ヨセフと聖母マリアの姿は旧約聖書の世界を表現しているとされています。幼子キリストは新約聖書の世界、つまり恩恵の世界を表現しており、また背後に描かれる裸体の青年群像は異教的な世界を表すとされています。そして裸体の青年群像と聖家族の間に位置する洗礼者聖ヨハネは、異教的世界とキリスト教世界の仲介を為す存在として描かれています。
従来、キリストの養父ヨセフの存在は、弱く、いつも隅っこで頼りなげに描かれていました。一方、本作でミケランジェロが描いたヨセフは、強い父親です。ピラミッドの頂点で、威厳を持ち、知性ある顔立ちで描かれています。
フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵。
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自画像 ラファエッロ・サンツィオ

古典主義絵画の祖でイタリア画家、ラファエッロ・サンツィオの作品(1505年頃)です。
ポプラ材にテンペラを使い描いた自身の自画像で、現在、ラファエッロ自身のはっきりと確認できる自画像と言われています。
21~23歳の頃のラファエッロで、既に徒弟修業を終え画家として独り立ちし、各地の教会から祭壇画の制作を依頼され順調に大画家への道を歩み始めたころの自画像です。虚ろな眼付、物憂げな表情が気になりますが、容貌は端正に整った美しい青年で、芸術家らしい繊細な眼鼻立ちが印象的です。
イタリアのウフィツィ美術館所蔵。
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受胎告知 レオナルド・ダ・ヴィンチ、アンドレア・デル・ヴェロッキオ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチと師匠のアンドレア・デル・ヴェロッキオが共同で描いた作品です。
本作は、ルカ福音書で、大天使ガブリエルがキリスト受胎を告げるために聖母マリアのもとを訪れた場面を描いています。
マリアが手にしている百合の花は処女性とフィレンツェを表しています。また、マリアの前に置かれている大理石の机はヴェロッキオが同じ頃制作したフィレンツェのサン・ロレンツォ大聖堂のピエロ・ディ・コジモ・デ・メディチの墓碑彫刻をモチーフにしたものです。
ヴェロッキオは有鉛絵具を使用して大胆な筆致で描いています。これに対してダ・ヴィンチは無鉛絵具を使用した柔らかな筆致で、自身に任された背景部分と大天使ガブリエルを仕上げました。
大天使ガブリエルの翼は、ダ・ヴィンチが描いたオリジナルでは鳥の翼を模写したものでしたが、後世の画家により、長く伸びた翼に描き変えられています。
フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵。
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東方三博士の礼拝 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品で、未完の傑作と言われています。東方から3人の賢者がキリストの生誕を祝福するためにベツレヘムを訪れた新約聖書の場面を描いています。
それでは具体的に観て行きましょう。
前景には聖母マリアと幼子と跪いて礼拝したマギが三角の構図で描かれています。彼らの背後には半円的な形で同行している人々が描かれ、その中には若いダ・ヴィンチの自画像(右端の羊飼いの若者)も含まれています。円形にひれ伏すような配置は、同時期の画家にはみられない、ダ・ヴィンチ独自の立体感のある構図です。また、通常は3世代(老年、壮年、青年)の姿で描かれるマギを、2人の老人と1人の若者の姿で描いています。
そして、後継に広がるのは殺戮の情景。自身の存在を脅かす救世主の誕生を恐れたユダヤ王ヘロデが、幼児を探し出しては殺していった、という場面が描かれています。
フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵。
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サンタ・マリア・デラ・ネーヴェの風景 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの21歳の時の作品です。ダ・ヴィンチが描いた現存する最も初期のデッサン画と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は、ダ・ヴィンチの小さい頃の遊び場を描いたもので、アルノ川の溪谷とモンテルーポ城が見えます。
地形の輪郭線は大地の堅固さを示しています。密に施された水平線は水面の反射光を効果的に表しています。また本作からダ・ヴィンチが遠近法として、遠くの風景を描くときは線をより薄くすれば良いことを理解していたことが判ります。
ピーテル・パウル・ルーベンスが史上初めて油彩画での純粋な風景画を描くのは、ダ・ヴィンチがこの絵を描いてから200年後のことです。このデッサン画の流れるような岩や川、草木は時代を先取りしていました。
フィレンツェのウフィッツィ美術館所蔵。
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長い首の聖母

イタリアの画家パルミジャニーノの作品で、マニエリスムの中で最も優美な作品のひとつです。
それでは、マニエリスムの特徴からこの作品を観て行きましょう。
聖母マリアの身体はが長く引き伸ばされ、身をくねらせています。これがマニエリスムの特徴です。そして、どこか非現実的な明暗となまめかしい色彩と聖母マリアの魅惑的で艶かしい眼差しは、宗教的礼拝像としては、並外れて優美で官能的です。
また聖母マリアの膝で眠る幼児キリストの身体も引き伸ばされています。
聖母マリアの膝の上で安心してぐっすりと眠り込んでいるように見えますが、
青ざめた額と力なく垂れ下がる左腕は将来やってくる受難の悲劇を暗示しているかのようです。
フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵。
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大公の聖母

レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロと並ぶ盛期ルネサンスの三大巨匠の一人、ラファエッロ・サンティの作品。ラファエッロは多くの聖母子像を描きましたが、中でもこの作品は傑作として名高く、幾世紀にも渡り完璧な絵の典型とされてきました。
若きラファエッロは、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受けたと言われます。この作品にもレオナルド・ダ・ヴィンチの影響が感じられます。
さて、レオナルド・ダ・ヴィンチから受けた影響とは何でしょうか?
それは、スフマート技法です。スフマート技法とは、深み、ボリュームや形状の認識を造り出すために色彩の透明な層を上塗りする技法です。
当時のルネサンス期のマリア像は、あまりに世俗的、官能的になり過ぎていると感じていた、ラファエロは、スフマート技法を用い、幻のように神秘的にかつ、優雅なバランスと調和を絵画上に実現しました。
甘美で心和む安心感ある作品。これがラファエッロの絵画です。
フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵。
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聖母子と天使たち

この作品は初期ルネサンスを代表するフィレンツェ派の巨匠、フラ・フィリッポ・リッピの名作と言われる作品です。
フィリッポ・リッピは、この作品で2つの画期的な試みを行っています。
具体的に見て行きましょう。
まず一つ目。通常イエスを抱いて描かれる聖母マリアが合掌してわが子を拝んでいます。これは後に「謙遜の聖母」と呼ばれ、マリアが自分の母性としての主張はせず、自分もまたイエスの下にあることを示しています。一方、聖母マリアの息子イエスを見つめる視線は、我が子への慈愛と未来への不安の表情が虚ろいながら複雑に入り混じり、聖母の感情を見事に表現しています。
そして、二つ目。それは背景の描き方です。窓の手前(室内)に聖母子を中心とする人物、窓の外に景色が描かれています。これは当時は斬新な構図で、レオナルド・ダ・ヴィンチの「空気遠近法」も、この背景の描き方をヒントに開発したと言われています。
フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵。
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聖アンナと聖母子

この作品は全体構想をマゾリーノが、聖母子と右上の天使をマザッチョが描きました。ウフィツィ美術館所蔵。
フィレンツェにあるサンタンブロージョ教会の依頼によって作成され、修道院の家に通じるチャペルのドアに飾られていました。
マザッチオは人物像のボリュームと確かな視覚構造を使いキャンバスの空間を満たすことに優れています。また、絵の中央にいる聖アンナと聖母子の周りに描かれている天使達は、マゾリーノのゴシック様式のブラシで描かれ、非常に柔らかい形と淡い穏やかな色合いで繊細に描写されています。
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