両替商とその妻

この作品の場面は、中世的な雰囲気が残る16世紀初期のフランドルの両替商の屋内です。厚い緑色のカバーを敷いたテーブルの前で、暖かそうな服を着て被りものをした両替商が天秤で金貨を図っています。その横では瀟洒な身なりをした妻が時祷書のページをめくる手を止めて夫の手先を見つめています。
二人の画面に対して平行に、三角形を形作るかのように寄り添い、左右対称に配置されており、それが手前テーブルの水平線、そして背景のモティーフの水平、垂直の線とともに画面に安定感を生み出しています。色彩は、夫の服と妻の襟と袖口の毛皮の灰色がかった青が、また妻の服と夫のシャツの袖口の赤が呼応しており、同様に二人の被っているオリーヴ色と茶色の帽子もテーブル・カバーと背景の戸棚の色と呼応しています。
両替商の妻は、まるで時祷書の言葉や聖母子の細密画より現世の財物に注意を奪われているように見え、そこに道徳的批判の精神を読みとることが出来ます。 この作品の最初の額縁には「汝、正しい天秤、正しい重りを用いるべし」という、聖書の一節が刻まれていて、両替商の不正の警告になっていました。
ウェンティン・マセイスは16世紀前半のネーデルランド絵画を代表する画家で、こうした風刺のきいた風俗画の新境地を開きました。
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