オウム貝の杯のある静物

本作は、オランダ画家ウィレム・カルフが描いた絵画で、オランダ17世紀静物画の傑作と言われる作品です。
具体的に見て行きましょう。
カルフは、異国の品々の外形や質感を、当時、描かれることは無かった具体性をもって再現しています。薄暗く陰鬱な闇に暖かい光が差し込む事で出来る反射光のきらめき。まるで、奥深く描かれた色彩の向こうから光が出て来るようです。それにより、異国の品々に、謎めいた生命があるような感じを与えているのです。
精巧な細部の表現、色彩感覚と光の効果、巧みな構図、それらが見事に融け合った作品です。
マドリードのティッセン=ボルネミッサ美術館美術館所蔵。
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ジョヴァンナ・トルナブオーニの肖像

ミケランジェロの師として知られる巨匠、ドメニコ・ギルランダイオの作品。
本作品は、15世紀ルネサンス時代で最も美しい肖像画の一つとされています。
若々しいけれど控えめな美しさ、そして清楚な雰囲気が漂う作品ですね。
銘文には「ああ、芸術よ。もし彼女の特性や内面性を再現することができるなら、この世にこれに勝る絵画はないだろう」と記されています。
マドリードのティッセン=ボルネミッサ美術館美術館所蔵。
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受胎告知

15世紀のイタリアルネサンス期の画家、ジョヴァンニ・ベッリーニの作品。
ジョヴァンニは、画家一族で知られるベッリーニ家の中でも特に有名な画家で、ベネチア派の巨匠と呼ばれています。
さて、ベネチア派の特長は何でしょう?この作品で見て行きましょう。
左のドアから急ぎ足の天使と共に日差しが部屋に差し込んでいます。窓枠と天使の影が床と壁に柔らかく落ちて、まるで普通の部屋に午後の訪問者が来たかのような日常性が感じられます。聖母も静かな表情で受胎告知を聞いています。
「日常の明るい静けさの中で受胎告知を描く」。ここにベネチア派の特長が表れています。ベネチア派は、流動的で詩的な雰囲気の中で、人間の感覚に直接訴えかける効果を追求し続けました。
ベネチアのアカデミア美術館所蔵。
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老女

謎めいた画家、ジョルジョーネの作品。ジョルジョーネは、15世紀の盛期ルネサンス、ヴェネツィア派の画家で、ティツィアーノと関係が深かったと言われますが、不明な部分が多く、西洋絵画の歴史の中で、もっとも謎に満ちた画家の一人です。この作品についても謎が多い。
当時の画家は肖像画と言えば、権力者やその伴侶を描くのが一般的でした。そんな中、何故、名もなき市井の人物、しかも老いた女性を描いたのか。不思議です。
また、描かれた女性が胸に押し当てている紙片には、「時がたつにつれて / Col tempo?(イタリア語)」と記されています。
この意味は、かつて美しかった胸が時と共に衰えるということを言っているのか。かつて美しかった女性も時が経てば老いていくことを言っているのか。
何を伝えようとしていたのか謎は尽きません。
ベネチアのアカデミア美術館所蔵。
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ヴェールの女

レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロと並ぶ盛期ルネサンスの三大巨匠の一人、ラファエッロ・サンティの作品です。巨匠ラファエッロの作品の中でも、別格の存在感があります。
その理由は。。。
モデルは、モデルはフォルナリーナ(パン屋の娘の意)と呼ばれています。ラファエッロはこの女性と密かな恋愛関係にありました。しかし、ラファエッロは社会的地位を上げる為、他の女性との政略結婚を決意し、フォルナリーナと別れます。
だが、ラファエッロはフォルナリーナへの想いを断ち切ることができず、婚礼の衣装を纏った婦人の肖像画「ヴェールの女」を描き、自己の想いを表現したのです。
ヴェールを被るフォルナリーナの表情は、自分たちが結ばれないことへの悲しみを表しています。このようなラファエッロの切ない思いがある作品だからこそ、別格の存在感を感じるのでしょう。
当初はフォルナリーナの指には、婚姻の証である指輪が描かれていました。しかし絵画が一般に公開されることとなり、絵具を上塗りして、指輪を隠したとされています。ピッティ宮殿所蔵。
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子椅子の聖母

15世紀前半、盛期ルネサンスの画家ラファエッロ・サンティの晩年の作品。
この作品からはダ・ビンチのような神秘性も、ミケランジェロほどの厳しさも感じられません。しかし、ラファエッロの聖母子像は、時代を越えて多くの人々を引き付けてきました。
その理由を見て行きましょう。
幼児キリストを抱きしめる聖母マリアと幼児洗礼者聖ヨハネを描いています。画面一杯に幼児キリストを描き、聖マリアは少し身を屈めています。
そうすることで、トンド(円形画)の中に聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネをうまく収め、心和む安心感ある作品に仕上げています。
聖マリアはターバンにショールという世俗的な衣装で、伝統的な赤や緑のマントは来ていません。しかし色彩は∨字形の聖マリアの腕の赤を中心に、緑・青・黄色と鮮やかに使われ、甘美的です。
甘美で心和む安心感ある作品。これこそ、ラファエッロの聖母子像が、時代を越えて多くの人々を引き付けて止まない理由です。
フィレンツェのピッティ宮殿所蔵。
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アイソンとメディア

15世紀のフィレンツェで活動した画家、ジローラモ・マッキエッティの作品。
ギリシャ神話の一場面を描いています。その場面とは「若返りの魔法」です。
それでは、解説しましょう。
若返りの魔法とは、「羊の喉をかき切って魔法の霊薬を血管に満たし、ぐらぐらに湯を沸かした大釜で煮る」と若返るというものです。
画面では、コルキスの王女メディアは、義父アイソンを若返らせようとしています。メディアは釜のそばに立ち、月桂樹の枝で材料をかき回せています。義父アイソンは、椅子にのけぞっています。
若返りという人間の不変のテーマを描いた作品です。
フィレンツェのヴェッキオ宮殿所蔵。
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ペルセウスとアンドロメダ

15世紀のイタリア人芸術家ジョルジョ・ヴァザーリの作品。
ヴァザーリは、ミケランジェロの弟子です。「画家、彫刻家、建築家列伝」の執筆で有名となり”最初の美術史家”と呼ばれています。
それでは、本作の場面を解説しましょう。
アンドロメダはエチオピアの王女です。ポセイドンの怒りを買い海獣の生贄にされそうになっているところを、ペルセウスが救いに出かけます。しかし、海獣には剣はまったく歯が立たちません。
そこで、ペルセウスはギリシア神話の怪物メドゥーサの首を取り出し、海獣を石に変え、王女を助け出しました。メドゥーサの首を海水に置くと、そこから流れた血がサンゴになりました。
本作では、岩に縛られた王女の鎖をペルセウスが外しています。また、アンドロメダの左足元にメドゥーサの首があります。メドゥーサの首から溢れたサンゴを男女が収穫しています。
興味深い作品ですが、残念ながら、絵画としての評価はさほど高くありません。
フィレンツェのヴェッキオ宮殿所蔵。
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魔女キルケ

この絵画は16世紀フェラーラ派を代表する画家ドッソ・ドッシの作品で、難解で文学的な魅力に包まれた名作と言われています。
ドッソ・ドッシ独自の色彩による光と陰影の描写と安定的な構図が一体となった素晴らしい作品ですが、謎は尽きません。
この女性はだれ? 犬や鳥、それに鈍く光る甲冑はどういう意味? そして、画面右奥で語り合う3人の男たちはどういう人たち?
この謎を有望な説で解説していきましょう。
女性はキルケ。自身の敵と見做すものを、自らの魔力によって、ライオンや狼などの獣や怪物に変えてしまう魔女です。彼女は、呪術具らしき人形を見つめ、手には古文的文献と火が灯される松明が握られています。足下には円形の魔方陣や武具、幻想的な犬などが配され、キルケの魔女たる所以を表現しています。
画面右奥の3人の男は、オデュッセウス一行と思われます。これは伝説的逸話で、一行は魔女キルケによって豚に変えられてしまいますが、オデュッセウス自身はローマ神話の守護神、ヘルメスに授けられた薬草モーリュによって魔女キルケの魔法に打ち勝ちます。
一方、このような解説はさておき、魔女キルケの華麗な衣装には魅せられます。その魅力は安定的な構図に支えられており、後方の生き生きとした遠方まで見渡せる景色が引き立てているのです。
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