カフェ・タンブランの女 ファン・ゴッホ

オランダのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホの作品です。
ゴッホは1886年3月から1888年2月までパリに滞在し数多くの作品を制作しましたが、本作はその中でも「タンギー爺さんの肖像」と共に同時期を代表する作品のひとつです。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は、パリの古い酒場キャバレー・カフェの年老いた女主人アゴスティーニ・セガトーリを描いた作品です。
女主人は、疲れきったかのような、やや陰鬱的な表情を浮かべながら右手に火のついた煙草を持っています。アンバランスに描かれる両目の焦点が定まらない表現は女主人の酔いの深さを感じさせます。そして円卓として使用される太鼓の上にはアルコールが置かれており、当時のパリにおいて重大な問題となっていたアルコールへの依存を暗喩させています。
本作の描かれる主題やその独特な退廃的表現は、印象派の先駆者エドガー・ドガの傑作「アプサントを飲む人(カフェにて)」の影響を受けていると言われています。
アムステルダムのゴッホ美術館所蔵。
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ムーラン・ド・ラ・ギャレット ファン・ゴッホ

オランダのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホの作品です。
本作は、パリの小高い丘の上にある、観光名所としても名高い庶民的なダンスホールのムーラン・ド・ラ・ギャレットの風景を描いた作品です。
風車の付いた粉挽き小屋とダンスホールが合わさった建物がムーラン・ド・ラ・ギャレットです。
この時代は都市開発の真っ只中にあり、本作で表現されるやや退廃的で重々しく、荒涼とした雰囲気や、質素で貧困的印象は都会的な一面と田舎的な一面が混在した当時の様子をよく表しています。
ベルリン旧国立美術館所蔵。
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1足の靴(古靴、古びた靴) ファン・ゴッホ

オランダのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホのパリ時代の代表作です。ゴッホが絵画を学ぶ為にパリを訪れた際、ゴッホ自身が履いていた革靴を描いたものです。
荒々しく大胆な筆触ながら、皮が剥げて擦切れて草臥れ、泥まみれで汚れがこびりつき、長年の雨風で皮がよじれてねじ曲がっています。
靴が過酷な状況下で使用され続けたことを想像させる作品です。
アムステルダムのファン・ゴッホ美術館所蔵。
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馬鈴薯を食べる人たち(食卓についた5人の農民) ファン・ゴッホ

オランダのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホの初期の代表作です。
ゴッホは本作を制作した後、「僕はこの絵で何よりも、ランプの下で皿に盛られた馬鈴薯(じゃがいも)を食べる人々の手が、大地を耕していた手であることを明確に表現することに力を注いだ」と言っています。
ゴッホは、労働者に宗教画にも通じる聖性を含んだ賛美と深い共感を感じていたのでした。
それでは具体的に観て行きましょう。
貧しい労働者階級の家族が、小さな慎ましいランプの光の中で夕食として馬鈴薯を食する情景を画題にした作品です。
画面中央やや上に煌々と炎を灯し暗闇を照らす小さなランプが配され、その周りを囲むように労働者階級の人々が描かれています。画面左側の若い男女は何か会話をしながら皿に盛られたジャガイモにフォークを挿しており、画面右側の少し年齢を重ねた老男女はカップにコーヒーのような飲み物を注いでいます。
強烈な明暗と光の描写によって登場人物や各構成要素は闇の中で浮かび上がるかのように表現されており、その姿や様子は風俗的な内容ながら聖画のような厳粛性を感じさせます。
アムステルダムのゴッホ美術館所蔵。
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雪中の狩人 ピーテル・ブリューゲル(父)

16世紀ブラバント公国(現在のオランダ)の画家、ピーテル・ブリューゲル(父)の作品です。ブリューゲルは、農村風景や市井の人々の暮らしぶりを好んで多く描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
この雪の眺めは、山から帰った狩人たちが見下ろす自分たちの街です。
暗い氷のような空とそれを映す池のモノクロームが、北国の凍てつく風土を見事に表現しています。ここには主人公はおらず、人々は小さく見分けもつかない。
これこそが人々の暮らしであり、厳しい自然の前では微小で取るに足らない人間たちが懸命に生きているのです。
ウィーン美術史美術館所蔵。
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子供の遊戯 ピーテル・ブリューゲル(父)

16世紀ブラバント公国(現在のオランダ)の画家、ピーテル・ブリューゲル(父)の作品です。ブリューゲルは、農村風景や市井の人々の暮らしぶりを好んで多く描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
中世の雰囲気が残る古い街の広場に子どもたちが集まり、思い思いに遊びに打ち興じている様子が丹念に描かれています。250人以上の子が83ほどの遊びを行っている「百科事典的絵画」です。輪回し、樽転がし、木馬、馬乗りごっご、椅子取りゲーム、結婚式ごっこ、店屋さんごっこなど、我々も知っているような遊びが広場に広がり、右手奥の街路の果てまで続いています。
ブリューゲルは、これらの子供の遊びの中に大人の社会の模擬を描き、大人の世界もまた子供の遊びに過ぎないというメッセージを込めました。
ウィーン美術史美術館所蔵。
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夜 フェルディナント・ホドラー

19世紀から20世紀初頭のスイスの画家、フェルディナント・ホドラーの作品です。
ホドラーは、19世紀末の時代を象徴した画家の一人です。作品には「死」や「夜」をテーマとしたものが多く、グスタフ・クリムトと並んで世紀末芸術の巨匠と言われています。
それでは具体的に観て行きましょう。
この作品のタイトルは「夜」ですが、「死」を扱っています。
何人かの人々が思い思いの格好で眠っています。その中で、中央の男性だけが目を覚まして、怯えた表情で起き上がろうとしています。
彼が怯えているのは、黒い布をすっぽりと被った不気味な存在に対してです。この不気味な存在は、生への不安と恐れ、あるいは突如出現した「死」を表しています。
そして、周りの人々は「安心して」眠っているように見えます。しかし、安穏とした人生に死は突如として訪れ、誰もが逃れることができない事をこの絵は表しています。
スイスのベルン美術館所蔵。
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接吻 グスタフ・クリムト

19世紀から20世紀初頭のオーストリア画家、グスタフ・クリムトの代表作のひとつです。この作品は、クリムトの「金の時代」と言われる時期に描かれたもので、この時期の作品は、金箔が多用され、絢爛(けんらん)な雰囲気を醸し出しています。
それでは具体的に観て行きましょう。
180cm✕180cmの正方形キャンバス上に抱き合う男女が描かれています。二人は、装飾的で精巧なローブで包まれ絡み合っています。男性のローブは長方形の模様が、女性のローブには円形の模様が描かれています。
二人は色彩豊かな花畑に立っていますが、花畑のふちに立っており崖のように見え、見る者に不安を与えます。
親密に固定された二人を中央に描き、周囲には揺らめきながら解体していくような退廃的な空間。金色の平坦で絢爛(けんらん)な背景に対して、閉じるような親密な抱擁をするカップルの姿。
「超現実的な空間でこそ純粋な愛は実現される。」がクリムトの主張でした。
オーストリア・ギャラリー所蔵。
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ヴィーナスの誕生 ウィリアム・ブグロー

19世紀フランスのアカデミズム絵画(※1)を代表する画家、 ウィリアム・ブグローの代表作です。
ブグローの構図や技法はアカデミックなものですが、官能的な裸婦像、可憐な子どもの像、憂愁を帯びた若い女性の像など、甘美で耽美的な画風で絵画を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作品は、ギリシア神話の女神アプロディテ(ヴィーナス)の誕生を主題としています。女神の海からの実際の誕生をではなく、完熟した女性として、海からキプロスのパフォスまで貝殻に乗って移動する場面を描いています。
ここにあるヴィーナスは、恥じらいのヴィーナスではなく、髪の毛をかき分けながら豊満な肢体を惜しげもなくさらす、欲望のヴィーナスです。表面的な装いはあくまで古典的ですが、身をくねらせた裸婦のきわどい官能性で、第二帝政期のブルジョワ階級の要求に応えた作品です。
オルセー美術館所蔵。
※1:アカデミズム絵画:フランスの芸術アカデミーの規範に影響された絵画の事です。芸術アカデミーでは新古典主義ならびにロマン主義運動の下で実践され、その2つを統合しようという試みがなされました。
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