モルトフォンテーヌの思い出

19世紀フランスの風景画家、ジャン=バティスト・カミーユ・コローの代表作です。
コローは、理想化された風景ではなく、イタリアやフランスのありふれた風景を詩情豊かに描きました。
その作品は、次世代の印象派との橋渡しをしたと言われ、印象派・ポスト印象派のピサロ、モネ、セザンヌ、フォーヴィスムのマティス、ドラン、キュビスムのピカソ、ブラック、グリスなど、多くの後世の画家に影響を与えました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作では、女性と子供たちが木々に囲まれた湖畔で過ごしている一場面が描かれています。無駄なものが省かれた右側の部分と、3人の少女によって活気が与えられている左側の部分との左右非対称が、構図に絶妙なバランスを与えています。
前景では一本の木が幕のようなものを形作り、木の背後では、水面が見る者の視線は、青みがかった遠景から空へと導かれます。
空と水面の薄青色と、木々の茂みの茶色と緑色。コロー特有の柔らかな色彩がデリケートな調和を醸し出す、詩情豊かな作品です。
ルーブル美術館所蔵。
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ヘラクレスとオンファレ

18世紀ロココ時代に活躍したフランスの歴史・神話・宗教画家、フランソワ・ルモワーヌの作品です。
ルモワーヌは、アカデミックな大様式の中に生気に溢れる色彩と優美な人体表現を取り入れ、簡潔で清々しい柔軟な構図展開で、ロココ様式に新たな歴史画の道を作りました。
それでは具体的に観て行きましょう。
作品はギリシャ神話の一場面です。
友人を発作的に殺したヘラクレスは、贖罪の為、リュディアの女王オンファレに奴隷として売られてしまいます。女王の寵愛によって腑抜けになったヘラクレスは、女装をさせられ、糸紡ぎ(女性の仕事)をしています。
場面は、ヘラクレスが女王の傍らに座り、抱擁をうけているところです。この倒錯した愛の主題は、女性による男性の支配という理念に由来していますが、ルモワーヌの生気に溢れる色彩と優美な人体表現により、むしろロココ的な享楽性が感じられます。
ルーブル美術館所蔵。
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サルダナバロスの死

19世紀のフランスのロマン主義を代表する画家、ウジェーヌ・ドラクロワの代表作の一つです。ロマン主義の特徴が最も示されている作品と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
アッシリア王サルダナパールの最期を描いた歴史画です。画面左奥のサルダナパロスは、白の衣服を纏い、鮮やかな赤色の敷布で覆われ黄金の象で装飾された寝具で片肘を突き寝そべりながら周囲の光景を無表情で眺めています。
その周囲では、臣下や近衛兵、奴隷らが、サルダナパロスの財宝を破壊し、寵姫や寵馬など王の快楽のための全ての者や動物を殺害する様子が克明に描かれています。サルダナパールは軍の敗北に際し、財産を破壊し愛妾を殺害するよう命じたのです。
残虐、陰惨、狂気、殺戮、破壊。これらの要素は、人間の本質の一部であるにもかかわらず、当時、暗黙のうちにタブーとされているものばかりでした。
しかし、この人間の本質を描くことこそ、ロマン主義の本質であり、今なおロマン主義絵画の最高峰として位置付けられている作品です。
ルーブル美術館所蔵。
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民衆を導く自由の女神

19世紀のフランスのロマン主義(※1)を代表する画家、ウジェーヌ・ドラクロワの代表作です。
ドラクロワの絵画は、色彩の魔術師と呼ばれたほど色彩表現に優れ、輝くような光と色彩の調和による対象表現や、荒々しく劇的でありながら内面的心象を感じさせる独自の場面展開が特徴です。
それでは具体的に観て行きましょう。
この作品は、1830年に起きたフランス7月革命を主題としているます。
中心に描かれている、銃剣つきマスケット銃を左手に持ちフランス国旗を目印に右手で掲げ民衆を導く果敢な女性は、フランスのシンボル、マリアンヌ(※2)です。
「自由」「平等」「博愛」の意味を持つ、後にフランス国旗となる青・白・赤色の旗を掲げる女性は、争いの暗い影に光をもたらす存在として描かれており、民衆の、死してなお自由を求める力強さは圧巻です。輝くような光と色彩の調和、そして荒々しく劇的でありながら内面的心象を感じさせる、ドラクロワの真骨頂が遺憾なく発揮されている作品です。
また、女性は自由を、乳房は母性すなわち祖国を、という具合に、ドラクロワはこの絵で様々な理念を比喩で表現しています。マスケット銃を携えて女性に続くシルクハットの男性は、ドラクロワ自身と言われています。
ルーブル美術館所蔵。
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※1:18世紀末から19世紀前半のヨーロッパ、及び、その後にヨーロッパの影響を受けた諸地域で起こった精神運動の一つ。それまでの理性偏重、合理主義などに対し感受性や主観に重きをおいた一連の運動です。恋愛賛美、民族意識の高揚、中世への憧憬といった特徴をもち、近代国民国家形成を促進しました。
※2:マリアンヌは、フランス共和国を象徴する女性像で、自由の女神として知られています。

ホラティウス兄弟の誓い

18世紀フランスの新古典主義の巨匠、ジャック=ルイ・ダヴィッドの作品です。
この作品は、ダヴィッドがロココ様式を放棄し、新古典主義の様式で描いた最初の作品で、新古典主義絵画の模範作品と言われています。
ダヴィッドは、デッサンと形を重視し、理性を通じた普遍的価値の表現を追求しました。
それでは具体的に観て行きましょう。
紀元前7世紀、アルバ人の代表であるクリアトゥス兄弟に挑むため、ローマ人によって選ばれたホラティウス三兄弟が、死を賭した勝利を誓っている場面を描いています。
背景をぼかして描くことにより、前景の人物像を強調し、くすんだ色合いに描くことで、その背後にある物語の重要性が、絵そのものよりも強調されています。
男性は全員、背景の円柱と共に直線的に描かれ、その力強さや剛直さを表現しています。一方、女性は、円柱の上に見られるアーチのような曲線で描かれています。
剣は、2つが曲がった剣、1つがまっすぐな剣です。これは兄弟のうち1人だけが生き残る境遇にあることを暗示しています。
ルーブル美術館所蔵。
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メゾン・カレ

18世紀のフランスを代表する新古典主義の風景画家、ユベール・ロベールの作品です。
ロベールは、廃墟や古代建築物のある風景を得意とし、時には生命力溢れる人物を配置する知的で叙情豊かな風景表現で名を馳せ、「廃墟の画家」と言われ人気がありました。
それでは具体的に観て行きましょう。
ここでは、南フランスのニームにある古代ローマの遺跡、メゾン・カレを中心に円形闘技場とマーニュ塔が描かれています。
建物の痛みや周囲に転がる石が悠久の時の流れを感じさせ、前景の小さな人物たちが古代遺跡の壮大なスケール感を演出しています。
ルーブル美術館所蔵。
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ナヴォーナ広場

イタリア出身の新古典主義の画家、ジョヴァンニ・パオロ・バンニーニの作品です。
バンニーニは、様々な古代遺跡を組み合わせた「創造的廃墟図」が有名ですが、ここでは、壮麗な広場の景観を緻密に描いています。
それでは具体的に観て行きましょう。
描かれているのは、長さ240メートル、奥行き65メートルにも及ぶローマのナヴォーナ広場です。広場の中央には世界の象徴である四つの大河(ナイル川、ガンジス川、ドナウ川、ラプラタ川)を擬人化した「四大河の噴水」があり、高いオペリスクと共に画面中央に見えます。広場の景観が緻密に描かれています。
ルーブル美術館所蔵。
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サン・マルコ湾から見た埠頭

18世紀イタリアを代表する稀代の景観画家と言われる、カナレットの作品です。
カナレットの作品は、大気性を感じさせる開放的な景観表現とそれを支える幾何学的な遠近法、輝きを帯びた繊細な色彩、そして、絶妙に対比された明暗と光の描写が特徴です。
それでは具体的に観て行きましょう。
この作品では、ベネチアの良く知られた眺めの一つが描かれています。左にはサン・マルコ図書館、その後ろには鐘楼がそびえ、右には総督宮、その後ろにはサン・マルコ大聖堂と時計台が見えます。
水上には、遠近法を駆使して帆船やゴンドラなど様々な船を並べ、水の都の賑わいを伝えています。そして、紺碧の空は、画面の四分の三を占め、そこに立ちこめる灰色のもやが、画面を浸す光を和らげています。また精緻に描かれた建築、水面のきらめきなど、見れば見るほど、カナレットの力量に圧倒される作品です。
ルーブル美術館所蔵。
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ヴァルパンソンの浴女

19世紀フランス絵画界の新古典主義の巨匠、ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルの作品です。
アングルは、ルネサンスの古典を範と仰ぎ絵画制作の基礎としました。色彩や明暗よりも形態を重視し、また忠実に模写することよりも自分の美意識に沿って絵画を描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
頭にターバン風頭巾を着けた浴女は、寝具に腰掛け一息をつくような自然体の様子で背後から描かれています。皺ひとつよらない理想化された肌の表現や、全体的に丸みを帯びた女性らしい肉感とふくらみの描写は、あたかも古代の彫刻のようです。
色は多用せず、緑色、クリーム色、茶色をトーンの変化をつけ、左のカーテンから背景の布、ベッドカバーと画面の右に移動するにつれて明るくなっています。
このグラデーションの変化が入浴に掛けて、魂の洗浄と純化を表しており、モデルが風呂場から離れるほど白く、清くなっていきます。
ルーブル美術館所蔵。
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