ブノアの聖母 レオナルド・ダ・ヴィンチ

16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
本作は、ダ・ヴィンチが師匠のヴェロッキオから独立して最初に描いた作品です。
当時ダ・ヴィンチは視覚理論を追求していました。当時の考えでは、人間の目から、もっとも重要なものを視野の中心にとらえる光が発せられるとされていました。ブノアの聖母のマリアに抱かれたキリストは、聖母マリアの手によって視線を花により導かれています。
この作品は多くの画家に模倣され、ラファエロの「カーネーションの聖母」も、ブノアの聖母の影響を受けていると言われています。聖母マリアとキリストの配置、聖母マリアの顔の傾き、右上の窓、青の膝掛け等、ブノアの聖母を模擬しているのは明らかです。

ラファエロの「カーネーションの聖母」

サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館所蔵。
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ボールに乗った女道化師 パブロ・ピカソ

19世紀スペインのキュビスムの創始者、パブロ・ピカソの青の時代と薔薇色の時代の中間に位置する作品です。
青の時代には青一色であった画面に、灰色や、そして次第に暖かい赤色が加えられていきます。主題も憂鬱感や社会的疎外感から、次第に薔薇色の時代の陽気さや楽観主義へと変わっていきます。
それでは具体的に観て行きましょう。
この作品のピンク色の色調は「薔薇色の時代」のものです。但し少女のコスチュームは薄ら寒い灰色で、彼女のしなやかな体はやや異彩を放っています。柔軟な彼女の体、丸みを帯びたポーズ、弾むようなボールの形は、角ばった筋肉質で四角い箱の上にどっしりと構える巨大な男性と対極をなしています。
繊細な乳白色、ピンクそしてブルーの色調で満ちた画面、青青の時代とは異なった新たな空気の感覚、そして対象物間の空間の美、青の時代から薔薇色の時代への過渡期の作品でありながら、本作は薔薇色の時代の代表作の一つと言われています。
モスクワのプーシキン美術館所蔵。
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オルタ・デ・エブロの工場 パブロ・ピカソ

19世紀スペインのキュビスムの創始者、パブロ・ピカソの分析的キュビスム時代の作品です。アフガニスタンの郵便切手になった事でも有名な作品です。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作はピカソがスペインで休暇中に見た工場を描いたものです。
分析的キュビスム時代は、プロトキュビスムの時代から更に分析が進み、対象が徹底的に分解され、何が描かれているのか識別することが困難なところにまで進んでいきました。
サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館所蔵。
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アンブロワーズ・ヴォラールの肖像 パブロ・ピカソ

19世紀スペインのキュビスムの創始者、パブロ・ピカソの分析的キュビスムの時代(※1)の作品です。
本作品のモデルはフランスの美術商、アンブロワーズ・ヴォラールです。ヴォラールは、ピカソを含む当時無名の画家に対して物質的・精神的な援助をしました。
それでは具体的に観て行きましょう。
画面を切り込むような線が何本もあり、それらが切り子のような面がランダムに並べられています。ヴォラールは、厳しい表情で描かれていますが、光を微妙に当てることにより、平坦にリズム感を加え、画面の中から顔が浮かび上がって来るように工夫されています。
人や物を平面に細分化、解体し、画面上で組み合わせたり重ねたりすることで、遠近法で表される空間とは異なった空間を表現しています。
※1:分析的キュビスムの時代(1908年 – 1912年):プロトキュビスムの時代(1908年 – 1909年)から更に分析が進み、対象が徹底的に分解され、何が描かれているのか識別することが困難なところにまで進んでいきました。
モスクワのブーキシン美術館所蔵。
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刑務所の中庭 ファン・ゴッホ

オランダのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホの作品です。
本作は、ゴッホが精神病院「サン・ポール」入院時に描かれたものです。
地面のブルーから上に向かって徐々に黄色に変化しているのは、まさにゴッホの世界です。
それでは具体的に観て行きましょう。
高い壁に囲まれた刑務所の中庭で、33人の囚人が整然と円を描くような歩行運動を行っています。囚人達の表情は全く覇気がなく希望を感じられず、まるで出口の見えない迷路を彷徨っているかのようです。その中で唯一、一番手前で歩いている金髪の男だけが本作品を観る者へ僅かに視線を向けており、入院中のゴッホの自由への渇望が表れています。
さらにゴッホの精神状態を反映させたかのような刑務所の高い塀へ、眩いほどの明瞭な光が最も強く当てられている点や、判り難いですが画面上部やや左側の二匹の白い蝶の存在から、ゴッホの希望を失っていないことが伺えます。
モスクワのプーシキン美術館所蔵。
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忘れえぬ女 イワン・クラムスコイ


19世紀のロシア画家、イワン・クラムスコイの代表作です。本作品はロシアで最も有名な肖像画の一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
街角で一人で馬車に乗っている上流階級の女性が、静かに画家を見下ろしています。虚ろな眼差しはこちらに向いていますが、感情を表してはいません。内なる憂いを秘めた感情を抑えているようにも見えます。
静かなたたずまいとまっすぐな瞳、ある種の心理的・内面的な曖昧さ、多様性に、つい引き込まれてしまう作品です。
モスクワのトレチャコフ美術館所蔵。
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静かな修道院 イサーク・レヴィタン

19世紀ロシアの風景画家、イサーク・レヴィタンの作品です。
本作は、レヴィタンがヴォルガ川に沿って旅した時に見た光景を絵画にしたものです。ネギ坊主頭の塔と、その右の修道院との建築的なコントラストが絶妙です。川にかけ渡された粗末な木の橋は、日常(現世)から教会のある対岸(神の国)への架け橋を表しています。
モスクワのトレチャコフ美術館所蔵。
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モンマルトル大通り カミーユ・ピサロ

19世紀フランスの印象派の画家、カミーユ・ピサロの作品。
ピサロは、ホテルの部屋などから都市の情景を描く「都市シリーズ」を多く制作しています。本作も「都市シリーズ」のひとつです。
大都会の賑わいを描きながらも、馬車の黒っぽいシルエットをはじめ、明度、彩度ともに抑え気味の色彩を用い、画面全体の色彩の調和的な響き合いを重視して作成された作品です。
サンクト・ペテルブルクのエルミタージュ美術館所蔵。
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ヴォルガの船曳き イリヤ・レーピン

ロシアの移動派画家、イリヤ・レーピンの初期の代表作です。
レービンは、貧困や差別にあえぐ社会の最下層を題材とした作品を数多く描きました。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は船曳き労働の過酷さ、及び、圧政に苦しみ虐げられる民衆の姿を描いた作品です。横長の画面に苦役囚のように苦しげに大きな船を曳く11人の男たちが描かれています。
前方を見ながら先頭を行く男は民衆の知恵を表し、その左のたくましい男は肉体的な力と民衆の素朴さ、単純さの象徴です、
その左右の前屈みになったやや小柄な男は、民衆のやり場のない怒りを代弁しています。苦役の縄を嫌がる少年や病弱の老人など、人物の表情・心理の描き分けが見事です。
サンクトペテルブルクのロシア美術館所蔵。
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