バッカス レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
一人の男性がヒョウの毛皮を持ち、牧歌的な風景の中に座っている様子を描いています。この男性は洗礼者ヨハネです。ヨハネは右手で左を差し、左手で杖を抱えながら大地を指さしています。
従来、洗礼者ヨハネは、年老いた預言者風には描かれて来ましたが、ダ・ヴィンチはヨハネを、美しく、若々しく、中性的に描いたのでした。
この作品は従来「洗礼者ヨハネ」と呼ばれていましたが、「バッカス」と呼ばれるようになりました。ヒョウの毛皮の衣は、古代の酒神バッカスの目印と言われています。
ルーブル美術館所蔵。
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ほつれ髪の女 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの円熟期に描かれた傑作の一つです。
それでは具体的に観て行きましょう。
モデルの女性は穏やかに下を見つめ、目は半分閉じており、外の世界や視聴者を完全に無視していかのようです。ほつれた髪は波を打ち、背景と一体化しています。僅かに微笑えんだ口元は、モナリザを連想させます。
本作は大部分を占める顔を除いて、ほとんどスケッチされておらず、未完成の様にも見えます。しかし未完成の部分と完成した部分のコントラストが絶妙で、絵画が不完全ではなく、ダ・ヴィンチは、故意に未完成の状態のままにしたのだと言われています。
ルネサンス美術に詳しいアレクサンダー・ナーゲルは、本作を次のように評しています。
「この瞳は外界の何も見つめておらず、時空を超えて停留しているように見える。この瞳は外界からの直接的な印象を受け入れるのではなく、内省を通して見つめている。それは特定の思考を越えた浮遊する心持ちであり、自己の肉体すら意識しない無自我の境地である。ここで精神世界は言葉や態度ではない絵画的効果という新たな法則によって示唆されている。」
イタリアのパルマ国立絵画館所蔵。
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サンタ・マリア・デラ・ネーヴェの風景 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの21歳の時の作品です。ダ・ヴィンチが描いた現存する最も初期のデッサン画と言われます。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作は、ダ・ヴィンチの小さい頃の遊び場を描いたもので、アルノ川の溪谷とモンテルーポ城が見えます。
地形の輪郭線は大地の堅固さを示しています。密に施された水平線は水面の反射光を効果的に表しています。また本作からダ・ヴィンチが遠近法として、遠くの風景を描くときは線をより薄くすれば良いことを理解していたことが判ります。
ピーテル・パウル・ルーベンスが史上初めて油彩画での純粋な風景画を描くのは、ダ・ヴィンチがこの絵を描いてから200年後のことです。このデッサン画の流れるような岩や川、草木は時代を先取りしていました。
フィレンツェのウフィッツィ美術館所蔵。
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猫のいる聖母子 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
ダ・ヴィンチが聖母子を猫と共に描いたスケッチ画の6枚の内の1枚です。
キリストと同じ時間に生まれた猫の伝説はあるものの、猫という動物はキリストと象徴的に結びつくものではありません。しかし何の象徴でもないからこそ、ダ・ヴィンチは猫を好んで聖母子とともに描きました。
本作の上半分は人物たちの頭部が作り出す対角線によって堅固なものになっていますが、下半分は不明瞭であり、ダ・ヴィンチが聖母の足の位置について試行錯誤していることがわかります。
大英博物館所蔵。
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ヘルメットをかぶった兵士の横顔 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
兵士の胸より上を左側面から描かれた肖像のデッサン画です。兵士は羽のついた兜とライオンの頭部のついた胸当てを身に付けています。
ダ・ヴィンチがヴェロッキオの工房の徒弟であった頃に、師ヴェロッキオの作品(アレクサンドロス大王とダレイオス王)を単純化して模写したものと言われています。
ダ・ヴィンチが生きていた時代、鉛筆はまだ発明されていませんでした。その為、鉛筆の代わりに銀筆(※1)を用いてデッサンを描いています。
大英博物館所蔵。
※1:銀筆:下塗りをした紙に尖らせた銀の芯で描く技法。繊細かつ緻密で半永久的に消えない線を描くことができるも、修正は困難。
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トビアスと天使 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
ダ・ヴィンチが修行していた、アンドレア・デル・ヴェロッキオの工房で1470年代前半に祭壇画のために制作されたものです。
ダ・ヴィンチが描いた現存する最初の絵画と言われています。
主題は旧約聖書からとられており、父に頼まれて旅に出たトビアスに大天使ラファエルが守護神として同行する場面を描いています。
当時の上流階級では、遠方へと旅立つ息子のために、本主題に基づく絵画の制作を画家へ依頼することが多かったそうです。本作に登場する2人は、当時の流行の服装を身に付けています。
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵。
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アンギアーリの戦いとカスチーナの戦い レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ

「アンギアーリの戦い」は、15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
フィレンツェのヴェッキオ宮殿の大広間に描かれた壁画です。軍旗を激しく奪い合う兵士達や軍馬の衝突が描かれ、ダ・ヴィンチ最大の大作と言われています。
ダ・ヴィンチは、本作を油絵で描こうとしました。ロウを混ぜた厚い下塗りなど試行錯誤をしましたが、表面の絵具が流れ落ち、結局、壁画を途中で諦めることになりました。
現在は、ヴァザーリ作のフレスコ画「ヴァルディキアーナでのマルチャーノの戦い」で上書きされてしまったため、ヴェッキオ宮殿で見る事はできません。

        ヴェッキオ宮殿の大広間

しかし、ピーテル・パウル・ルーベンスにより模写されたもの(上記画像)がルーブル美術館に展示されています。
一方、ダ・ヴィンチがヴェッキオ宮殿で「アンギアーリの戦い」を描いていた頃、反対側の壁では、ミケランジェロが「カスチーナの戦い」を描いていました。

ミケランジェロの「カスチーナの戦い」

しかし、こちらも「カスチーナの戦い」の下描きが終わった頃、ミケランジェロは教皇の墓を手がけるためにユリウス2世にローマへ呼び戻され、未完のままとなりました。
フィレンツェのヴェッキオ宮殿所蔵。
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ラ・ベル・フェロニエール レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
ダ・ヴィンチの作品で、一人の女性を描いた肖像画はわずかに4作品しか現存せず、本作はその中のひとつで「ミラノの貴婦人の肖像」とも呼ばれています。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作はミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァの愛妾ルクレツィア・クリヴェッリを描いた作品と言われています。
構図には、フランドル画家たちが始めた様式の影響が見られ、モデルの頭部と上半身だけ描き、両手は下部の手すりに隠れています。ダ・ヴィンチの特徴であるスマフート技法(※1)も見られます。
ルーブル美術館所蔵。
※1:スマフート技法:深み、ボリュームや形状の認識を造り出すため、色彩の透明な層を上塗りする絵画の技法。
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白貂(しろてん)を抱く貴婦人 レオナルド・ダ・ヴィンチ

15-16世紀イタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品です。
ダ・ヴィンチの作品で、一人の女性を描いた肖像画はわずかに4作品しか現存せず、本作はその中のひとつです。ポーランドの国宝にも指定されています。
それでは具体的に観て行きましょう。
本作品はミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァの愛妾チェチリア・ガッレラーニを描いた作品です。
チェチーリアの身体は右方向を向いていますが、顔は左に向いています。これはダ・ヴィンチの作品でよく見られるピラミッド型螺旋の構図で、彼が生涯こだわっていた左へ振り向くという身体運動の力学が本作品にも反映されています。
また斜め前から見た横顔の肖像も、ダ・ヴィンチの特徴の1つで、視線は鑑賞者の方には向けられず、絵のフレームを越えた「第三者」に向けられています。
ポーランドのクラクフ国立美術館所蔵。
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